ところで、「バベルの塔」といえば、ブリューゲルの描いたものが有名です。ウイーンにある大作と、ロッテルダムにある小さい目のサイズのものと2作あります。ブリューゲルの「バベルの塔」では、塔の上の方はまだ未完成だったのですが、半世紀もたって描かれたこの作品では、ずいぶん建設が進んで、塔は雲をつきぬけて今にも天に届きそうです。
塔の左右と上の方には、青い天然の同鉱物アズライトが使われて、周囲の空と溶け込み、山のように大きい塔であることが強調されています。そして、塔のまわりには何十ものレンガを焼く釜があって、そこからいきおいよく煙が出ています。
中央に見える赤い帯びのような部分は、焼きあがったレンガの山です。また画面前面では、バビロニア王国のニムロド王が、右端の図面を持った建築家から説明を聞いています。王の行列の最後には、呪文を書いた紙を額に張り付けた異端の神学者の姿もあります。
また面白いことに、その行列に中に、捕らわれの身となったサルの姿が見えることです。これに似たサルは、ブリューゲルの作品にも「アントワープの町と二匹のサル」というのがありました。キリスト教絵画のなかでは、サルは愚かなものや捕らわれ者と言った意味がありました。
この絵の解説で誰もが見落としてしまうのは、左に描かれた十字架のない教会です。キリストが生まれる前の旧約聖書のお話ですから、十字架がなくっても当たり前ですが、ここにあえて十字架のない教会を描くことで、神を恐れぬ者の傲慢さも暗示しているようです。 |