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No.12 バイオリン職人 亀井仁氏 インタビュー 
今回は古都ブリュージュでバイオリンを製作されている亀井仁さんにインタビューしました。みなさんはバロックバイオリンと呼ばれる楽器をご存知でしょうか?18世紀後半〜19世紀、バイオリンに限らず色々な楽器が変化を遂げて来ました。その変化を遂げる前の物がバロックバイオリンで、現在のバイオリン(モダンバイオリン)はバロック時代やそれ以前の物とは随分異なるものとなりました。

ベルギー国立管弦楽団やモネ歌劇場管弦楽団のようなオーケストラ、そしてベルギーの有名なコンクールであるエリザベート王妃国際コンクールのバイオリン部門などで弾かれているのは、モダンバイオリンですので、現在ではモダン楽器を演奏する人の方が圧倒的に多いでしょう。

しかしベルギーは古楽も盛んな所でもあります。亀井さんはモダンバイオリンの他にバロックバイオリンも製作されているので、今回はベルギーで活躍されているバロックバイオリン奏者の中丸まどかさんとの対談でお送りします。

神田: バイオリン作りを始めた理由は何ですか?

亀井仁氏(以下亀井):きっかけになったのはバイオリンを習っていて、そろそろプロ用の楽器に替えた方が良いという話になった時に、中々気にいるのが見つからなかったのです。予算が低いというのもありましたが。そんなこんなで探している時に、バイオリンキットというのを見つけたのです。それで面白いなと作ってみたら、案外悪くなくて(笑)。考えてみると、バイオリン作りって、究極何だか小学生の雑誌の付録みたいに、ただ切って貼り合わせると出来るんだなって思って興味が湧いて、それで今度は板を自分で切る所から始めたくなって作ってみたのです。そしたらやっぱり案外悪くないなって(笑)。

中丸まどか氏(以下中丸) : 作れちゃうところがすごいですね。

亀井:でも本当にプラモデルみたいな感覚でしたよ、初めは。

神田:説明書があるのですか?

亀井:そうです。製作者ごとに製作図があって、板の形など。。。それで一つ完成したら、今度はまた別のを作りたくなったのです。ストラスヴァリ作ったら、ガリネリも作りたいな。ガリネリ作ったら、アマティ。アマティが出来たらシュタイナーと。

中丸:シュタイナー作られたのですか? 今日持ってこられましたか?

亀井:今日はもってきてないです。

中丸:あー、残念。シュタイナーとても興味があるのです。

亀井:そうですか!ではまたの機会に!

神田:当たり前ですけど、モデルになるメーカーによって大分音は違うのでしょうね。

亀井:そうですね。バイオリンは形で大分音が変わります。他に、木の材質とか、厚さ、魂柱、ネック (先のクルっとした部分)

中丸:バイオリンだと弦の太さでも変わりますね。それにしても作ってみようと思うところがスゴイ。

亀井:ただ作るだけなら簡単なんです。

中丸&神田:そうかなぁ(笑)

神田:作ってみようまでは分かるとしても、作り続ける所が違いますね。縫い物とか、自分の好みに合うように作ったりするけど・・・たまにしか出来ない。オートクチュールは時間かかるし(笑)。

中丸:でも昔は確かに僕の腕は少し短いからこうしてくれとか、手が小さいからこうしてくれとか、もっと奏者に密着して作られてましたよね。

亀井:そうなんですよ!昔はもっとオートクチュールみたいにバイオリンが作られていたんです。だから国どころか、地方、街毎に趣向が違ったくらい。それを旅人や、旅をしている音楽家が違うものを発見してくるわけです。

神田:旅も発見の連続でもっと面白かったでしょうね。和洋折衷ならぬ、伊独折衷とかが生まれて。

中丸:ルイ十三世だか十四世だかの時代に、宮廷でイタリアとフランスの音楽家が競争音楽会をしたんですよ。そしたらイタリアが勝ってしまったのです。イタリアの煌びやかさが新鮮だったのでしょうね。でもそうなるとフランスの音楽家も「よし俺達もイタリアの様に」ってなる人と、「いや絶対にフランス風を守る」という人と現れる。お互いが影響されあって、その時代のフランス音楽はとっても面白いんです。

神田:バイオリン製作で楽しいところや、難しい所は何ですか?

亀井:楽しいのは、製作者のコピーモデルを研究して作り、上手く出来あがった時ですね。曲がり具合や高さ低さなど色々研究します。

神田:逆に選ぶ人は、そういう所もチェックするのでしょうか?

中丸:人によりますね。形から入る人もいれば、音から入る人もいる。

亀井:プロの人は、弾きやすさや、手応えを一番見ますね。形がスタンダードから離れてると違和感を感じる事が多いようで、やっぱり売る為にはスタンダードモデル作らなくてはなりませんね。

中丸:うーん、残念。拘って欲しい。でも難しい問題ですね。

亀井:そうですね、生活もあるし(笑)。

神田:モダンフルートは最近の見極めは鳴るかどうかが一番の主流かな。高いから何本も持てないし一本勝負。でも拘って作る人はやっぱり面白いし、応援したい!という気持ちはありますね。

中丸:モダン楽器からくると、均一に音が鳴るかどうかというのが評価の一つになりますが、バロックバイオリンはもっとザラザラしたというか、音によって鳴らないみたいなのがあるというか、不均一というか。でもその不均一さが良いのですよね。作曲家も楽器に結びついていたし、楽器を通して曲を学ぶという所があります。

神田:それはトラベルソ(フルートの古楽器)を吹いてそう思いました。今まで鍵穴から見ていた世界の鍵をもらった感じだなって。

中丸:例えばフランスの昔のオルガンは、かなり鼻にかかっていて美しい音かと言われると、人によると思います。好き嫌いが分かれるところ。でも、それが美しいとされていて、だから他の楽器もそれに合わせた美しさになっていく。良いものの基準ももっとバラエティーに溢れていたのです。

亀井:僕のバイオリンは、以前あるプロ奏者の方に、モデルによって音が変わると言われました。 君のしている事はアートだと言われて、これは褒め言葉だよって。まだ製作者としては新人というのもあり、まだ僕自身の音というのが定着してないというのもあるのでしょうが、コピーに近づこうという意志を認めてもらえて嬉しかったです。

神田:製作者自身に拘りがないと難しいでしょうね。工場製品ではないですから。探究心もいるし、技術向上もあるでしょうし。本人に拘りがないとそういうのが付いて来ないでしょうし。でも、拘ると売れないのか。

一同:笑

中丸:ポーランド人の知り合いにバイオリン製作者がいますが、やっぱり拘って作っていて。でも売れないんです。今はオールドと呼ばれる、モダンバイオリンを昔ながらのバロックに戻して使うというのが流行っていて、それが一番良いと考えられてるのです。
でも、なんというか、そのバロック時代はバロック楽器というのは「現代の」楽器だったわけで、古ければ良いという訳ではないと思うのです。モダンバイオリンにしても同じことですけど。もっと現代の製作者を応援していかないと、現代の楽器というものがなくなってしまう。

亀井:そうですね。応援してください(笑)。まぁ色々試してみるのは経験になりますが。 面白いのは、ストラスヴァリなど色々研究して、中期にはもっと大きい音をなど色々変えているのです。でも後期になると逆に初期の頃の嗜好にまた戻っているのです。でもそれは決して成長していないわけではない。元に戻っているけれど、やはりその間の試行錯誤を通して成長してるんですね。

中丸:それが芸術の面白いところですね。私は楽器や、昔の作曲家からインスピレーションを得て、自分を確立して行くという芸術活動がとても好きですね。パーセルとヴィヴァルディの音のイメージの違いは、どこから来るのだろう?と考えた頃は楽器のことなど色々知りたくなって。今はそれを自分で消化して自分の物にしていってる感じです。それの繰り返しでしょうか。

神田:当時の楽器製作者や、場所によって、時には人によって大きく違うそんな世界を想像すると楽しいですね。それらを発見するさすらいの音楽家になってみたかったです。今日は沢山の面白いお話を有り難うございました。

亀井さんが製作されたバロックバイオリンとバロックヴィオラを中丸さんに、モダンバイオリンを夫のダニエルに試奏してもらいましたので、ぜひ下記の動画にてお聴き下さい。

【バロックバイオリン編】


【バロックヴィオラ編】


【モダンバイオリン編】


亀井仁 (Kamei Jin)

ベルギーゲント王立音楽学院、フランス リル音楽学院にて、バイオリンをミカエル・ベズベルクニー氏、バロックバイオリンをフロリアン・ドイトル氏、ヒィリップ・クベルト氏、チェンバロをジョン・ワイトロー氏、オルガン、声楽、ビオラ・ダ・ガンバをマスター・コースにてウイランド・クウイケン氏に習う。独学でバイオリン製作を始める。イギリス ウエスト・ディーン大学にて楽器製作の短期講習を受ける。
URL: http://jkviolinmaker.webs.com/

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神田望美 (かんだ のぞみ):ベルギーを中心に演奏活動を繰り広げているフルーティスト。 日本、西欧諸国、ノルウェー、チュニジアの音楽祭、コンサートにも出演し、各国の新聞にて好評を得る。 Estampes(フルート・ヴィオラ・ハープ)、東京ブリュッセルトリオ、フルートアンサンブル4tempiのメンバーとして活躍し、室内楽を主に多くの音楽家と活動する。故西沢幸彦氏の影響を強く受け、新境地の開拓を目指し、邦楽器、語り、日本の音楽をプログラムに取り入れるなどの試みをしている。ブリュッセル王立音楽院フルート科教職課程を修了し、ベルギー公立のアカデミーの代理講師、Dinant International summer academieにて指導。Atelier de Fluteを立ち上げ指導を行う。日本でもセミナーや吹奏楽部指導などを定期的に行っている。これまでに高橋あかね、植村泰一、西沢幸彦、マルク・グローウェルス氏に師事、ヴァンサン・リュカ、ヴァンサン・コルトブリントらのセミナーに参加。 フェリス女学院大学音楽学部、王立モンス音楽院卒。公式HPブログも絶賛更新中!


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