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No.11 マルク・グローウェルス氏インタビュー (後編)

私お喋り笛吹きがベルギーに留学する切欠となった先生でもある、世界的に活躍するフルーティスト、マルク・グローウェルス先生のインタビュー後編です。

今回は先生の「教育哲学」というものを御聞きしてみました。とは言ったものの、私の記憶では先生はおおよそ先生らしくなく、当時は「THE テキトー先生」と思っていました。しかしそうかと思うと、突然すごく厳しい一言が落ちて来たり。「テキトー」に思えた先生の行動にも、実は「裏の思惑」があったのです。

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お喋り笛吹き自身も普段のレッスンや講習会などで教える機会がありますが、教える上での哲学は人それぞれ違う物です。専門的に学ぶ際には先生と相性が合うかどうかというのも重要な所になります。そこでグローウェルス氏の教授哲学とはズバリ?と聞いてみました。

「哲学!君も知っている通り僕は自由奔放な人間だからね(笑)毎日音階やエチュードをしっかり勉強しているかっていうのをコントロールする警察のような役目を求めてるんだったら、僕の所に来てはいけません!」と一笑。「それにフルーティストになりたくて勉強しに来たというんだったら、練習してるか監視するのは僕の役目ではないです。」と厳しいとも取れる一言。

しかしそれは御尤もで、社会に出てしまえば自分でスキルアップをしなくてはいけません。上司がいる世界でもないので全ては自己管理。意志の強さを鍛えるのは必須。待っていても何も降って来ないですから、自分で考えて工夫して行動しなくちゃいけない。確かにそんな力は付いたなと思いました。先生はただの「THE テキトー先生」ではなかった!

そんな先生にももちろん「拘り」はあります。それは「音」。

「僕はとても音を大事にしたいって思っているんです。フルートだろうと、他の楽器だろうと、音楽は最初に人々が聞くのは「音」だと思うんです。沢山音を吹いたって、音に何かがなかったら誰も聞いてくれない。つまり僕が一番大事にしたい哲学は、音の中にある魔法や色、幅の広いニュアンスかな。意外と沢山の人が気付いていない。それからもう一つ僕が大事にしている哲学は「模倣」です。真似をする事で無意識のうちに出来る事が沢山あると思うんです。僕はレッスンで沢山吹きます。それが大事だと思うんです。昔ゴールウェイズが大好きだった時アルゲリッチとの演奏など沢山聞きました。僕にとっては新しい物で本当に何度も聞いて沢山の事を学びました。」

先生の模倣レッスン。レッスンでも演奏していると「つまらない。僕が吹いてやる。」と肘で突かれ譜面台から追いやられる。それでも、あまり何度も「つまらない」と言われると段々腹が立って来て、肘でつかれても、意地でどかずに踏ん張って吹き続けた事も。。。
実は日本の伝統音楽も耳から学びます。箏奏者の方曰く御師匠は何も言わず、とにかく弾いてそれを真似する。「まなぶ(学ぶ)」という言葉は「真似る」という言葉から来たとも言われています。この真似る学びは私に本当に理解する時間を与えてくれた気がします。聞き取って自分で考えて消化する。時間は掛かるものの血となり肉となるわけです。
対照的なレッスンですと、ある時ある楽器のマスタークラスに行った時、レッスン中先生が90%お話をして生徒含め楽器の音を殆ど聞かなかったという事がありました(笑)

更に物申すグローウェルス氏。

「僕が思うのは、沢山の教師が何でもエクセサイズとかから学ばせようとするんです。ヴィヴラートとか、音色とか、フレージングというのは無意識に音楽から来るんですよ。エクセサイズからは全て学ぶ事は出来ないと思います。多くの先生が楽曲分析したり説明を沢山している。和声とか対位とか・・・もちろんそれも大事です。でも演奏してるのを聞くとつまらない(笑)それで、彼らは頭では理解してるけど感情面ではどうなのかなと思うようになりました。エリザベート王妃国際コンクールだって、それで一番になる人は技術だけじゃなくてどこかに魔法があるんですよ。これは沢山の音楽家の問題ですね。」

さてお喋り笛吹きがいた頃よりも門下生も増えていると聞きます。先生の目指す門下の雰囲気作りなどはあるのでしょうか。

「 いい雰囲気がクラスにある事が好きです。レッスンに来るのが罰を受けるみたいにならないようにしないと。この職業は競争が付きまとうから、いつも競争意識はありますが友情が存在しなくてはならない。それが一番大事です。 クラスの問題はベルギー人と外国人の生徒のレベルの差です。留学してくる外国人生徒は自分の国を出てここで勉強しようという決心をして出て来ます。韓国や日本から来る子達は大きなカルチャーショックもあるでしょう。ここに住むのは簡単な事ではありません。それを僕と勉強する為にしてくれるなんて有り難い事です。それで外国人生徒は自然とモチベーションも高くレベルもベルギー人より高くなり、僕のクラスにはベルギー人と外国人という、二つの速度の違う生徒達がいます。そしてレベルが高くない子程他の人を聞かない。それで僕は多くの先生がしているように時間割を決めず、『大体何時くらいに来て。』という風にするんです。」

まさにその通りで、そのために私は「THE テキトー先生」と思っていたわけですが、実はそこには大きな思惑があったのです。

「わざとクラスに人が沢山いる状態を作っているんです。そうすると他の人を聞かなくてはいけない。それに彼らは待つという事を強制的に覚えなくちゃいけない。自分の順番が来るのを待つのはイライラするかもしれないけど、現実待たなくちゃいけない事はあるから、これを学ぶ事はもっとモチベーションを上げるんですね。」

当時、本当に待たされました。私は待ち時間にはイライラしなかったのですが、長々と待った後、突然「はい吹いて」と言われるのが苦手でした。ボケッと他の子のレッスンを傍観していたりすると突然の事に驚いて100%実力発揮が出来ず。そして先生には「つまらない演奏」と言われ「こんなに待っていきなり吹けるか」と内心怒っていました。しかし確かに現実では散々待ったり、あれやこれやと違う事をして、「さぁ舞台へどうぞ。GOOD LUCK!」という事が多々あります。いつも最上の条件の上で本番を迎えられるとは限らないのが現実。特にこちらヨーロッパだと。。。どんな条件下でも次に繋がる演奏をしなくちゃいけないんですよね。 先生は色々考えていらしたのです。「THE テキトー先生」の名は返上しなくてはなりませんね。

最後に先生は

「インスピレーションを与えるようにしたいんです。さっきの真似をするという事もそうだけれど他の学生を聴くとかそういう事から。。。それからとにかく人間らしくいること、自分自身でいること。人間らしくあっても学生の力を伸ばす事は出来ると思いますから。音楽をするって素敵な事でしょう?だから楽しい雰囲気がないと。」

と。確かに和気あいあいとした雰囲気な事が多かったモンス音楽院のフルート門下でした。しかしそんな和気あいあいとしたレッスンを行う先生ばかりではなく、「泣かせの◯◯」の異名を取る先生も。生徒は必ず泣きながら教室を出て行き、それが「レッスンというもの」という先生も。

マルク先生は笑って、

「 知ってますそういう人!僕の先生!レッスンでは毎回皆泣かされました。僕は泣いてないけどね!泣きたかったけど我慢しました(笑)でも90%の学生が泣きながらレッスン室から出て行きましたよ。ある時はクラスの伴奏要員が泣きながら出て行った!!!(笑)」

あのマルク先生が泣くのを我慢しなくてはならない程の先生なんて・・・私は直ぐに止めてしまいそうです!


マルク・グローウェルス

1954年、ベルギーのオーステンデに生まれる。フランダース・オペラ管弦楽団でフルーティストとしてデビューし、1976年、ベルギー国立歌劇場管弦楽団首席ピッコロ奏者となる。1978年よりベルギー放送交響楽団首席フルート奏者を務めた後、ソリストに。1986年にCarlo-Maria Giulini 率いる有名な「World Orchestra」でも首席奏者を務めた。

世界各国で年間100回以上のコンサートに出演し、同時にマスタークラス等の指導も行っている。かつてベルギー王立音楽院で教鞭をとり、現在はMonsの王立音楽院の名誉教授に就任している。

演奏はA.ピアソラに捧げられた「タンゴの歴史」をはじめクラシック、ジャズ、タンゴなど幅広い音楽に挑戦し、常に新しい可能性を追求し続けている。
Naxos社から「The Flute Collection」という題名のCDを多数出す予定で、既に発売されているF.メンデルスゾーンに捧げるCDは商業的にも大成功を収めている。

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神田望美 (かんだ のぞみ):ベルギーを中心に演奏活動を繰り広げているフルーティスト。 日本、西欧諸国、ノルウェー、チュニジアの音楽祭、コンサートにも出演し、各国の新聞にて好評を得る。 Estampes(フルート・ヴィオラ・ハープ)、東京ブリュッセルトリオ、フルートアンサンブル4tempiのメンバーとして活躍し、室内楽を主に多くの音楽家と活動する。故西沢幸彦氏の影響を強く受け、新境地の開拓を目指し、邦楽器、語り、日本の音楽をプログラムに取り入れるなどの試みをしている。ブリュッセル王立音楽院フルート科教職課程を修了し、ベルギー公立のアカデミーの代理講師、Dinant International summer academieにて指導。Atelier de Fluteを立ち上げ指導を行う。日本でもセミナーや吹奏楽部指導などを定期的に行っている。これまでに高橋あかね、植村泰一、西沢幸彦、マルク・グローウェルス氏に師事、ヴァンサン・リュカ、ヴァンサン・コルトブリントらのセミナーに参加。 フェリス女学院大学音楽学部、王立モンス音楽院卒。公式HPブログも絶賛更新中!


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