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No.5 良い羊飼い (ベルギー 王立美術館蔵)  
ピーテル・ブリューゲル 〈Pieter Bruegel de Yonge
(「大ブリューゲルの息子」「小ブリューゲル」「地獄のブリューゲル」とも呼ばれる)

これはベルギー王立美術館が所蔵する、大ブリューゲルの息子が描いた「良い羊飼い」です。これが息子の全くのオリジナルのアイデアか、父親の大ブユーゲルの失われた作品のコピーなのかは、定かではありません。

(←絵をクリックすると拡大画像が出ます。)


この絵は見ての通り、狼に襲われた羊飼いが、自ら犠牲となって羊たちを逃がしたという新約聖書のヨハネによる福音書のエピソードに基づいています。そのヨハネによる福音書の第10章に、キリストの言葉としてこのように書かれてあります。「私は良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命をすてる。羊飼いではなく、自分の羊をもたない雇い人は、狼が来るのを見ると、羊を置き去りにして逃げる。」

福音書に書かれている通り、画面の背景には羊飼いの犠牲によって助かった羊たちが逃げていく様子が描かれています。でも良く見るとこの絵には気になる点が2点あります。最初の点は、絵の舞台となった場所です。羊の群れのいる場所ですから、私たちは当然草原を思い浮かべます。しかし、画面上の木々はほとんど枯れていて、冬の草が全く生えていない荒野の光景として描かれているのです。2点目は、羊達の逃げていく方向です。逃げていく方向のはるかかなたに教会の塔が見えます。父親の大ブリューゲルが1559年に描いた「フランダースのことわざ」という作品には、118ものフランダースのことわざが描かれていますが、はるかかなたに見える教会は、その絵にも描かれています。そこに描かれた遠くの教会には、まだ目的地に到達していない、つまり目的はまだ果たされていないことを意味していました。

もし父親の大ブリューゲルが、この絵のオリジナルを描いたと仮定するならば、冬の荒野は、スペインの圧制と重税制作、さらにプロテスタントの弾圧に苦しむフランダースのアレゴリーであり、遠くに見える教会は、フランダースの民の長くて遠い苦難の道を暗示していました。事実、大ブリューゲルが他界する前年に勃発した南北ネーデルラントの戦争は終結までになんと80年もかかりました。

 (絵画はクリックすると拡大します。別ウィンドウで開く場合はここをクリックしてください。)

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森 耕治著者: 森 耕治 (もり こうじ)
美術史家 ベルギー王立美術館専属公認解説者、ポール・デルボー美術館公認解説者、 京都出身、 5歳のときから油絵を学び、11歳のときより京都の 川端 紘一画伯に師事。水墨画家 篠原貴之とは同門。 ソルボンヌ、ルーブル学院、パリ骨董学院等に学び、2009年よりマグリット美術館のあるベルギー王立美術館に日本人として初の専属解説者として任命され、2010年には、ポール・デルボー美術館からも作品解説者として任命された。フランスとベルギーで年10回に及ぶ講演会をこなす一方、過去に数多くの論文を発表。マグリット、デルボー、ルーベンス、ブリューゲル、アンソール、クノップフ等の研究で、比類なき洞察力を発揮。そのユニークな美術史論と独特な語り口で、雑誌「ゆうゆう」NHKの「迷宮美術館」、今年2月の日経新聞のマグリット特集、ベルギー国営テレビ等マスコミの注目を集める。【お問い合わせ先

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