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連載:人ありき
作り手から“美味しさ”の秘密お届けします。                       【2015-1-26】
No.9 ヴィエノワズリーの香りに誘われて…②
ヴィエノワズリーの香りに誘われて①から既に一年が過ぎまして、2015年の新年を迎え時の過ぎ行く速さをしみじみ感じております。随分とのんびりした連載更新となってしまいましたが、今回の「ヴィエノワズリーの香りに誘われて…②」ではベルギー特有のヴィエノワズリーについてお届けします。

こちらベルギーのお菓子屋さんやカフェ、スーパーなどにもやはり皆さんにお馴染みのクロワッサンやパン・オ・ショコラは必ず置いてありますが、では「ベルギーならではのヴィエノワズリー」と言えば皆さんどんなものがあるかご存知でしょうか。

これから主なものをいくつかご紹介いたします。

Couques aux beurre クック・オウ・ブール &
Couques aux beurre raisins クック・オウ・ブール・レザン

Couques aux beurre クック・オウ・ブール
<Couques aux beurre>
Couques aux beurre のレーズン入り
<Couques aux beurre のレーズン入り>

こちらは 1958年にブルッセルで開かれた万国博覧会(L’exposition universel)において、当時開催に携わったパティシエの方達が、「何か新しいベルギーならではのものを」と話し合い考案されたヴィエノワズリーで、そのチームの中にはベルギーを代表するお菓子屋さん WITTAMER (ヴィタメール) の Paul Wittamer (ポール・ヴィタメール) 氏がおられました。今年このクック・オウ・ブールは誕生から57年目にあたります。

食感はクロワッサンのようなほろほろと崩れるような生地とは違い、少し弾力があるのが特徴で、焼き上がりの熱々にシロップが上面に塗られて仕上げられます。この呼び名は博覧会当時からその後もずっと”Couques aux EXPO” と呼ばれいたそうですが、何時しか今のような呼び名に変わっていったようです。

以下の2種類も同じ生地から作られたものです。

Tortillons トルティヨン & Tortillons praliné トルティヨン・プラリネ
Tortillons トルティヨン
<Tortillons>
トルティヨン・プラリネ
<Tortillons praliné の焼く前>

”ねじったもの” というフランス語が名前になったヴィエノワズリーです。トルティヨン・プラリネは、ねじり方を変えて成形した生地の上に砕いたプラリーヌのクリームが絞ってあります。

Cramiques クラミック & Craquelin クラックラン
クラックラン Craquelin
<Craquelin>

<バターを塗ったCraquelin>

ブリオッシュのような生地なのですが、バターの含有量が少なくブリオッシュよりも随分と軽めの仕上がりで、こちらではよく朝食に食べられます。クラミックは干しぶどう入りで型に入れて焼かれ、クラックランはサトウ大根から作られるベルギー名産のあられ糖 (Sucre de Perlé) が入り、丸形に成形されて型に入れないでそのまま焼き上げます。

このクラミックとクラックラン、ベルギー人のお気に入りの食べ方といえば、薄くスライスし塩入バターをたっぷり塗っていただくというやり方なのですが、必ず焼きたてのもでお試し下さい。美味ですよ!

更に以下に説明する2つもこちらと同じ生地から出来ているのですが、成形の仕方が違うため焼き上がりの食感が異なるところが何ともおもしろいです。

Cougnoux クニュ & Baulus ボリュス   
Cougnoux クニュ12月25日の朝にイエス生誕を祝って食べられるもので、冬の風物師のマルシェ・ド・ノエルの開催とほぼ同時期にクニュの販売も始まります。 今ではお店にクニュ(写真左)が並び始めると年の瀬を感じ始め、何だか気持ちもそわそわしてしまう、そんな季節のヴィエノワズリーです。私もこの地に長く暮らし毎年かかさずこのクニュを食べるというベルギーの習慣がすっかり身に付いてしまいました。

Baulus ボリュスBaulus ボリュス(写真右)は、可愛らしい造形のお菓子で、カスタードクリーム、レーズン、キャソナードを、薄くのばした生地の上に敷いてクルクル巻いてからカットしたものを、バターをたっぷり敷いた型に入れて焼いたもの。キャラメリゼのつややかな色合いがなんとも食欲をそそりますね。

carré confiture カレ・コンフィチュール
carré confiture カレ・コンフィチュール carré confiture カレ・コンフィチュール

名前の通り折り込みパイ生地に杏ジャムをサンドして焼いたあと 四角(carre)にカットしたもの。ベルギーでは、杏はいろんなお菓子や仕上げに使われたりするとても出番の多い果物のひとつで、夏の間の短い期間のマルシェにはベルギー産のもぎたて杏が毎年顔をだしますが、マルシェに並ぶ新鮮な杏の味はやはり格別です!

今回のヴィエノワズリーの制作と撮影にご協力いただいた生地専門職人(Tourrier テュリエ)の Eddy HAGNOUL (エディー・アニョール) さんはこの道25年のベテランです。



その日は朝の5時からアトリエにお邪魔して午後3時半まで見学させていただいのですが、一月半ばの暖房をつけない厨房は寒さが厳しく、私は終止コートを着たままの見学となりました。



その間エンジン全開で次ぎから次へとたくさんのヴィエノワズリーの仕込みが進んでいく中、無駄な動きなんて一切感じない機敏で流れるような作業は、休憩を取ることなく最後まで続きました。毎日生地と向かい合い膨大な量のヴィエノワズリーなどをいつも同じ状態に仕上げるということは、シンプルなものだからこそ難しく、それを一年を通してやり続けるTourrierという仕事の大変さを今日も改めて感じました。



18年前にほんの少しの間でしたが私はエディーさんの元で働いたことがありました。正直なところ、あの当時まだ¨tourrier¨というものが何なのか深いところで理解できていなかったと思います。今回エディーさんの真剣なまなざしを眺めながらお菓子の世界に入って間もない頃に、日本人の師匠から教えられた心に残る言葉を思い出しました。

「ヴィエノワズリーの仕事というのは、熟練された職人パティシエがする難しい仕事なんだ」

この日の見学を通していろんな想いが溢れでて、私に新たな気づきをもらたしてくれたとても貴重な一日となりました。お仕事を見学させていただいたエディーさんに心から感謝いたします。

彼に「大好きなヴィエノワズリーは?」と訪ねると、”クロワッサン” と ”トルティヨン” と答えてくれました。 彼曰く ”トルティヨン” のその食感が何とも言えず大好きなのだそうです。そう言われると何だかトルティヨンが無性に食べたくなってしまうのは私だけなのでしょうか。今度の週末にはとびきり美味しいコーヒーと焼きたてのトルティヨンを用意して、家族で朝の食卓を囲むのが楽しみです!



ささやかながらも私達の心をほっと和ませてくれるヴィエノワズリーを時には頬ばりながら、2015年もゆったりとした心豊かな時間をどうぞお過ごし下さい。

 


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小野島ゆかり 【著者: 小野島 ゆかり、パティシエール】
日本の菓子屋で修行をし、ホテルのパティスリー立ち上げからシェフを経験後、1997年に渡白。ブルッセル市内の菓子屋に従事。その後、結婚・出産を経て2002年よりフレンチレストランでパティシエールとして活躍。2009年末、新たなステージを目指してレストランを退職。現在はお菓子教室を開催しながら次のステップの為の充電中。得意なお菓子は、季節の果物を使ったデザート風アントルメ。愛知県名古屋市内の「”Le chapon fin” Les entremets Français」の野畑氏を師匠に持つ。

(ベル通でのインタビュー記事はこちらからご覧ください。)

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