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連載:人ありき
作り手から“美味しさ”の秘密お届けします。                       【2012-12-27】
No.7 心に届く味
「日本文化」と言えば、私はすぐに日本料理を連想します。2012年の連載を締めくくるのは、日本料理の名店、味処 もちづき さんです。お店は、愛知県の玄関である名古屋駅から程近い中村区の名楽町にある、知る人ぞ知る、そんなお店。のれんをくぐると、右手に10名様の個室があり、左手にはタモの木の一枚板の立派なカウンターが置かれたオー プンキッチン。その向こうに今日の主役であります料理人の望月孝浩さんが優しい笑顔と共にお出迎えしてくれました。そして、席に着くと北海道からこのお店に来たというタモの木のカウンターが私にぬくもりを与えてくれます。



望月さんのお料理は綺麗で、凛としています。口に入れると心が和らぐ優しさを感じます。その優しい味わいは、心まで染みて心に届き、癒されます。このことは、私だけではなく、ここに訪れた方皆さんが感じることなのでしょう。その証拠に、なかなか予約の取れないお店として多くの方達に人気を得ています。お料理をいただいているあいだ、その場は照明の明るさだけではなく、緊張感をほぐしてくれる、あたたかな光を感じました。

望月さんは、修行時代からお茶・お花などにも親しまれ、幅広い勉強をしていらっしゃいます。私が修行中の20代後半あの当時、ワイン会などにも積極的に参加されていた望月さんのことが印象的です。そのことは20年後の今、お店におかれているお酒の旨さが物語っています。今日は初めに、望月さんの心配りから、3種類の日本酒を試飲後、選ばせてもらいました。どれも個性的なしっかりとした味わいで、迷いながらも旬の生酒に決めました。作りたての生酒の味わいは格別で、いつもよりお酒がすすんでしまいます。それにしても、美味しい。お料理を本当に引き立ててくれます。お料理だけではなく、お酒・食後のお茶に至るまで何をとっても行き届いた心くばりとクオリティーの高さにはいつもの事ながら、感心してしまいます。



カウンター越しでお料理をつくりながら接客もされる望月さんの様子は長い経験からか、終始落ち着いていて、淡々と仕事をこなされています。余分な動きが感じられず、立ち居振る舞いが綺麗です。それでいて、お店の隅々にまで気を配っている様子はひしひしと伝わってきました。お店は夕方6時からの夜のみの営業ですが、朝7時には厨房に入り3時から4時までの一時間のお昼休憩の後、営業開始まで仕込みにかかります。毎日、お客様をお迎えするために、10時間という長い時間を費やしているのです。それをお聞きしただけで、お料理を大切に味わいたいという気持ちが一層膨らみます。



先日も、器を見せていただく為に、休憩中にお邪魔させてもらった際、掘りごたつの個室に通され、お部屋に入ると、テーブルには既に沢山の器がずらりと並べられていました。私は器以上に、準備して待っていてくださった心遣いに、驚きと彼の優しさを感じました。お話をお伺いすると、修行時代から少しずつお気に入りを集めていらしたそうです。その日、見せていただいた器は、ほんの一部なのですが、時代や歳を重ねると共に趣味趣向も変化して行くものです。今日までこつこつと揃えられた器はさぞかし沢山有ることでしょう。そんな望月さんも器を通して自分史を振り返ったりしているのではないでしょか。

望月さんがどうして、料理人の道を選んだのか。
それは、ご両親の生き様を見ていて、自分も感化されたことが一番のおおきい理由だそうです。料理に対する姿勢を見ていて、これほどまでに、打ち込められる物かと、びっくりされたそうです。既にご両親は他界されているそうですが、子供の頃から料理人であるお父様の後姿を見ながら大人になり、沢山のことを学び吸収されてきたことと、思います。



“味処 もちづき”をオープンされて10年目。お店を持たれてから、これまでの間に自分自身をおおきく変えたことは何ですか、という質問に対して。

-自分の『中心』=『真』に『軸』を持つことの大切さに気づきました。
そして、『軸』がぶれてしまうと女将さんや弟子までもぶれてしまい、やがて店がつぶれてしまいます。自分の正しいと思うことを信じる。ぶれない『軸』の大切さに気づきました。


料理人とは何ですか?

-自分を料理で表現できる人の事だと思います。
店の雰囲気(玄関の打ち水、掛け軸、
花)なども含めて・・・

どんな時も丁寧な話し方でお話をしてくださる望月さんの姿勢は、20年前から変わりありません。私が初めに、望月さんのお料理を綺麗で凛としていると言った理由は、それは単に彩りや姿かたちの綺麗さだけではなく、お料理から発せられているものに綺麗さや信念を感じるからです。料理は、作った人の心の状態、素材に対しての思いやり、仕込みの仕方、厨房まわりの清潔さなど、全てが映し出されると、私は思います。食べる側の私達も、歳を重ねいろんな経験を積んで行くと共に、そうしたものも、だんだん見えてきて、感じられるようになるのではないでしょうか。 月ごとに変わるメニュー作りの裏では、やはり望月さんも「無」から「有」をつくりだす大変さに苦しみます。「献立」が決まるまでの間は、食材の相性や取り合わせ、色の配色、料理の流れや創造性、オリジナリティー、悩む日が数日続くと話してくれました。だからこそ、常に感性を磨き、刺激を受ける人と会うことは、大事な事と考えているそうです。

取材を終えて、私もしっかりした『軸』を築けるように、努力して行かなければと、新たに気持ちのリセットができました。望月さん、今日は本当にありがとうございました。ご協力していただいた、女将さんの喜代美さん、お弟子さんの大谷さん、そして、カウンターを共に“至福”の時をご一緒していただいたお客様に心から感謝いたします。

2013年も、どうか、皆様がそれぞれの「心に届く味」に出会えますように・・・


 望月 孝浩
(もちづき たかひろ)
49歳。名古屋市生まれ。

会席料理の“たか田八祥”などの名店で修行を重ね、現在、“味処 もちづき”の大将として日々腕を振るう。心温まる、彼のお料理は、沢山の人を惹きつけて離さない。

「味処 もちづき
名古屋市中村区名楽町1-35
月曜定休


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小野島ゆかり 【著者: 小野島 ゆかり、パティシエール】
日本の菓子屋で修行をし、ホテルのパティスリー立ち上げからシェフを経験後、1997年に渡白。ブルッセル市内の菓子屋に従事。その後、結婚・出産を経て2002年よりフレンチレストランでパティシエールとして活躍。2009年末、新たなステージを目指してレストランを退職。現在はお菓子教室を開催しながら次のステップの為の充電中。得意なお菓子は、季節の果物を使ったデザート風アントルメ。愛知県名古屋市内の「”Le chapon fin” Les entremets Français」の野畑氏を師匠に持つ。

(ベル通でのインタビュー記事はこちらからご覧ください。)

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