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No. 7 フランダースのレッドエール、ブラウンエール

ベルギーが、大きくわけて、オランダ語を話す北半分のフランダース地方と、フランス語を話す南半分のワロン地方によって構成されていることはご存知かと思います。No. 7とNo.8では、それぞれの地方独特の(歴史的にそれぞれの地方で醸造されてきた)代表的ビールタイプをご紹介しましょう。「白ビール」「ランビック」「トラピスト」などが醸造された地域に立脚しない、世界的に知られるカテゴリーとなっているのに比べると、地方色が強く、知名度もやや低い分だけ、ベルギービールファンとしては興味をそそられるかもしれません。

では、フランダースのレッドエールとブラウンエールから。この両者の最大の違いは、その名の通り「色」。ビールの製法や味の特徴は、伝統的な開放槽で仕込み、オーク樽などの木樽で長期熟成させ、苦味が弱く酸味が強い点でよく似ています。より赤みの強いレッドエールは、現在の行政区分で言うと「西フランダース地方(ブリュージュなどを含む、より北海に近い地域)」で伝統的に造られたものとされ、代表銘柄はRODENBACH、DUCHESS DE BOURGOGNEなど。ワインを思わせる美しい赤褐色とオーク樽で長期熟成させた酸味が特徴ですが、あまりに「濃い」味わいなので、食中酒としてはやや不向き。ビール好きには敬遠されるかもしれません。レッドエールに比べると、ブラウンエールの知名度は更に今ひとつ。代表銘柄は、LiefmansのOud BruinやGoudenbandです。

一般には、東フランダース州、つまり、西フランダース州より内陸に位置する州で(でも、ドイツ国境に近い東側という意味ではありません)、伝統的に造られてきた茶褐色のビールということになっています。しかし、州境はずっと最近になってから行政上の理由で引かれたもの。ブラウンエールの代表銘柄が造られるOudenaardeは、東フランダース州の西端に位置し、レッドエールの代表銘柄が造られる西フランダース州のRoeselareから、たった30km弱しか離れていません。レッドエールとブラウンエールは、色味の違いもさほどではなく、色による識別も困難。ベルギービール業界でも、わざわざレッドエールとブラウンエールを別ものと考えるよりは、同じような原材料・伝統製法・地域(現在のベルギー・フランダースの南西部)で造られてきた赤茶褐色のエール(上面発酵ビール)と認識しているようです。

さらに、もう一歩踏み込むなら、製法上も、開放槽を用いた、天然酵母も取り込んだ混合発酵方法を用いているところも多く、そうなってくると、「グーズ・ランビック」とも近いことになってきます。グーズ・ランビックの定義には、原材料に3割以上の麦芽化していない「小麦」を使うこと、ブリュッセル西南部20km圏内で自然に生息する天然酵母だけの力で発酵させていることが入るのですが、木樽での発酵を継続しているところがほとんど。ランビックビール同様に、レッドエール・ブラウンエールも、ベリーやチェリーを漬け込んで再発酵させたバリエーションを造っているところも多く、ブリュッセルの西南とフランダース南西部は、地域的にも隣接しているわけで、「レッドエール・ブラウンエール」は、「グーズ・ランビック」の従姉妹位の位置づけともいえるでしょう。

レッドエール、ブラウンエール、ランビックをブレンドしたハイブリッドな製品も多く、これに、チェリーやベリー類を漬け込んだりするので、製品説明が難解で、素人頭には分類しにくい製品が多いのも事実です。その典型が、Liefmans醸造所のCuvée Brut(Oud Bruin とGoudenbandのブレンドにブラックチェリーを漬け込んだもの)やTimmermans醸造所のBourgogne des Frandres Brune(ランビックとブラウンエールのブレンド)などです。

また、レッドエール・ブラウンエールの醸造所・銘柄は、近年同じような運命を辿り、大手醸造グループの傘下に入っているところが多いことも指摘できます。今では専門職人すら確保できないオークの大樽で、ビール完成に二年以上の歳月を要する伝統製法では、よほどの資金力がなければ持ちこたえられるはずもありません。こうして、Rodenbach醸造所は、Palm醸造所グループに、Timmermans醸造所はMartin’sグループに、Liefmans醸造所はDuvelのMoortgat社の傘下に入っています。中途半端な合理化や下手なブランドマーケティングによる紆余曲折もないとは言えませんが、更なる発展に不可欠な設備投資やマーケティングノウハウを得て元気にふんばっています。そんな中、今でも、独立体制でやっているのは、Bacchuisを造っているVan Honsebrouck醸造所、Duchess de BourgogneのVerhaeghe Vichte醸造所くらいでしょうか。これらは、Belgian Family Brewers という伝統的な家族経営醸造所グループに加わり健闘している中堅どころとしてがんばっています。

いくつかの代表的銘柄、有名銘柄を簡単に解説します。

Rodenbach (Rodenbach醸造所、Palm醸造所グループ)
Grand CruおよびClassic(ブレンド)
http://www.rodenbach.be/

Rodenbach圧巻のオーク樽「ビアハンター」と異名をとった故マイケル・ジャクソン氏が、「世界一リフレッシングなビール」と絶賛した、このカテゴリーの代表銘柄。その酸味は、独自の酵母株とオーク樽による18~24ヶ月にも及ぶ長期熟成(内壁に生息する乳酸菌)によると言われています。
Grand Cruは、20ヶ月以上オーク樽で熟成したシングル特級。Classicは、Grand Cruに若いビールをブレンドして飲みやすくした廉価版。所在地はRoeselareでやや遠方ではありますが、高さ5メートルもありそうな巨大なオーク樽が、約300個も並ぶその熟成蔵の眺めは圧巻。お時間のある方は、ぜひ醸造所訪問を。

創業一族は、ベルギー史そのもののような、政治家、外交官、医師、作家、詩人、貿易商等を輩出した名門。そのひとりアレクサンダーは子供の頃から目が不自由であったにもかかわらず、初代国王レオポルド一世の片腕として建国に貢献した政治家として有名。

Duchesse de Bourgogne (Verhaeghe Vichte醸造所) http://www.proximedia.com/web/breweryverhaeghe.html

ラベルは、ブリュージュのシンボル、悲劇のブルゴーニュ公国のマリー規模はずっと小さいながら経営者姉弟が独立醸造所として奮闘しているのが、Verhaeghe醸造所。日本を始め海外輸出にも積極的。商品名Duchesse de Bourgogneとは、ハプスブルグ家出身の神聖ローマ帝国皇帝マキシミリアン一世と結婚した、ブリュージュ生まれのブルゴーニュ公国公女マリーのこと。二人は、フランス国王軍を撃退して、ブルゴーニュからブリュージュを含むフランダース西部をハプスブルグ傘下のスペイン領として仲良く統治したものの、マリーは若くして命を落とします。民衆から「われらの美しき姫」と慕われ、ブリュージュの聖母教会に、マキシミリアンとともに仲良く眠る中世フランダースを語るに欠かせない歴史上の悲劇の姫君です。

Liefmans Oud-BruinGoudenband (Liefmans醸造所)
http://www.liefmans.be/en

ベルギービール醸造界の母、マダム・ローザ生まれ変わったLiefmansLiefmans醸造所のあるOudenaardeは、コルトレイクからゲントへ通じるスヘルデ川に沿った水路輸送の要所であり、16世紀にはリネン輸送、織物業などで栄華を極めた土地。この周辺にはかつて20以上の醸造所があり、Liefmans醸造所の歴史は17世紀に遡るが、近年になって経営難に苦しみ、2008年Moortgat醸造所の傘下に入りました。Goudenbandはより濃褐色で、Oud-Bruinはやや赤め。両方とも開放槽で仕込み、木樽で4~12ヶ月熟成。その後、若ビールとブレンドして商品化されます。さらにこの2つに、赤い果実(イチゴ、木苺、ブルーベリー、ジェニパーベリー、チェリーなど)の果汁をブレンドして造られるのがCuvée Brut。最近Moortgat流の仕切り直しが整って、2013年夏、Cuvée BrutはOn the rocksを楽しむ若者ターゲットの夏のドリンクとして再デビュー。醸造所訪問も再び可能に。

Liefmans醸造所の顔はなんといっても、マダム・ローザ。当年88歳の彼女は、同世代ではほとんど唯一の女性ブルーマスターとして醸造所を牽引し、今も業界ではその美しい笑顔で活躍しています。

Bacchus (Van Honsebrouc醸造所)
http://www.vanhonsebrouck.be/en/bacchus.php 

独立系で健闘するBacchusVan Honsebrouc醸造所は、Roeselareに近いIngesmunster城の敷地内に、19世紀始めから続く、家族経営の独立醸造所。ラガービールを造っていた時期もあったものの、60年代から、ベルギーらしいビールへの回帰を目指し、レッド・ブラウンエールのBacchus、ランビックのSt. Louis、ゴールデンストロングエールのBrigand、アベイビールKasteelなど、多くの銘柄を持つ。Bacchusは、珍しく今でも典型的なフランダースの赤茶エールの体裁を保ち、一本一本、ワックス紙で手巻きされています。このBacchusにサワーチェリーを漬け込んだのが、Bacchus Kriek、木苺を漬け込んだのが、Bacchus-Framboise。

Bourgogne des Flandres Brune (Timmermans醸造所、Martin’sグループ)
http://anthonymartin.be/en/our-beers/bourgogne-des-flandres/bourgogne-des-flandres-brune-bruin/-6-10/ 

どちらが正統派? フランダースのブルゴーニュTimmermans醸造所は、伝統的なランビック醸造所がいくつも集まるブリュッセル西側のPajottenland(パヨッテンランド)と呼ばれる地域にあります。日本人の間では、ブリューゲル街道として知られている地域です。Bourgogne des Flandres Bruneは、「正統派」フランダースの赤茶ビールに、ランビックビールをブレンドし、オーク樽で長期熟成して作られます。「正統派」とこだわるのは、かつてブリュージュでブルゴーニュ公国に相応しいビールとして醸造を許されていたのはVan Houtryve一族だけだったのですが、50年代に一族が醸造を辞めてしまいます。その後、遠縁にあたるVerhaeghe醸造所がこのレシピを継続してものの、88年以降は、「Bourgogneを名乗れるのは、Martin’s傘下のTimmermans醸造所だけ」と主張しているから。何が正統派かは別として、このビールの瓶は、ブリュージュのシンボルとも言える鐘楼の塔が美しく描かれ、お土産にもよいかもしれません。

Martin’s社は、ビールや飲料メーカーの他、ベルギー各地に美しいホテルを経営する資本力あるグループ。ブリュージュ中心地にも小奇麗なホテルをもっており、その近くに近々Bourgogne des Flandres銘柄の店を開くようです。

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著者:栗田路子(くりた みちこ)
神奈川県生まれ。上智大学卒業後、外資系広告代理店勤務。米国コーネル大学およびベルギー・ルーヴァン大学にてMBA(経営学修士)取得。90年代始めから、ベルギービールの日本向け輸出・マーケティングに従事してきたが、2007年4月、セミ・リタイヤ宣言。現在は、寄稿や執筆、日本のメディアのためのリサーチやコーディネートなどを請け負っている。ベルギービールの他、教育、医療、障害児など、守備範囲は広い。 ベルギー在住。2010年にベルギービール騎士の会の「名誉騎士」に任命される。夫とともに㈱マルチライン経営の他、コーディネータースクラブ・ベルギーを運営。障害孤児の養子縁組を支援するチャリティ「ネロとパトラッシュ基金」運営。 障害を持つ子供と供に赴任する日本人駐在員をサポートする「元気ママの会」主催。 今までの寄稿をアップしたブログはこちらから。



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