スタッフ(以下S): 星獲得おめでとうございます。知らせを受けた時の様子を聞かせてください。
賀茂氏(以下K): 最初に知らせてくれたのは公表されたリストを見た業界の友人からでした。その日はたまたま店が休みで僕はミシュラン側から通知を受けられなかったんです。予兆も全くなかったので、「おまえ。星獲ったよ」といわれ、てっきり冗談でかつがれているのだと思いました。本当だとわかった時は、隣にいたカミさんと一緒にウルっときましたね。それからはニュースを聞きつけた友人達からの電話が次々と掛かってきました。
S: ミシュランの星は狙っていましたか?
K: 正直言って意識していました。ベルギーで自分の店をやるからには目指そうと思っていました。以前は審査基準としてナップ(注:テーブルクロス)掛かっていなければならないとか、ソムリエがいなければいけないとか、細かい規定があったのですが、最近は料理そのものの完成度で判断するようになってきていますね(注:レストランKAMOにはナップはかかっていない)。
星を捕ったことで特にお金をかけて設備をグレードアップしようとは考えていませんが、そろそろこの看板(吊るされたままの以前のバーの看板を指して)くらいは外してちゃんとウチのを掛けようと思ってます(笑)。
スタッフももっと欲しいところですが、如何せん場所が狭いもので今の6人が限界ですね。
S:スタッフが少ないことで賀茂さんがほとんどの料理に関わらなくてはならないということになりますね。
K: それが僕にとっては良いのかなと思っています。これ以上大きい店には向いていないのかな、と。
僕は一から十までの全てに関わらなくては気が性格なので、素材をチェックして、野菜をむいているところ、作っているところを見て、味見をして、(テーブルに)出て行くところを見られないとダメなんです。見られているスタッフはやりづらいでしょうね。「また見てるよー」なんて(笑)。
S:いとこのツヨシさんも調理人としてカウンターに立たれていますね。
K: 身内と組むことに関しては僕にはとってはやりやすいです。スタッフに恵まれましたね。
毎朝、業者が持ってくる魚を見て、状態が良くこれだったら大丈夫だなと思ったら、鮮魚や前菜の冷たいものはツヨシに任せることが多いですね。それでもやっぱり横から見てますけど(笑)。
S:そうやっていると自分の負担が大きくなってくるとは考えないんでしょうか。
K: 性分ですね。やはり自分がとことん拘りたいんですね。野菜一つにしても0.1ミリ単位でどこをどう剥いたら食感がよくなるか、美しくなるかをいつも考えながらやっています。そこまで掘り下げていかないと美味しいものは出来ないと思うんです。 意識して作ったものは、考えずにただ、切っただけ、焼いただけのものとは明らかに出来が違います。
S:愚問ですが、毎日料理をしていて嫌になる、なんてことはありませんか。
K: 嫌になることはことはしょっちゅうですよ。魚が自分が思うようにうまく焼けなかった・・・、とか。
S:合格点が高すぎるんですね・・・。
K: 技術はいつも磨こうとしています。調理学校を卒業してすぐにベルギーに来て、その間日本での経験が抜けているというコンプレックスがずっとあるので、その分、常に向上心を持っていなければ、と思っているんですね。
ベルギーから帰って東京の割烹に入ったときは、学校を出たての18歳の子の下について一からの修行だったんですよ。あの頃は仕事しかしていませんでした。
S:自分の店を持ちたいと思ったのはいつですか。
K: 25歳のときで、最初は「できたらいいな」という感じでした。場所はベルギーが好きなのでここに出したいと思っていました。 こちらではヨーロッパにしかない素材を使って和食を作るということに意義があると思っています。和食では使わないリードヴォー(ris de veau)を照り焼きにしたり、こちらにしかないきのこのセップ(cepe)なんかも、和食になると違ったり・・・。 こんな楽しみ方もあるんだよ、と地元の人に逆に提案できるのが面白いですね。
S:食材はどこで手に入れているのですか。
K: 日本の食材だけに頼りたくないので、一部パリから取り寄せている以外はベルギーで簡単に手に入るものを使っています。魚や野菜も自分の目で見て選んでいますね。
S:ワインはBIOのものを置いてらっしゃいますね。
K: ウチの料理には添加物を一切使っていないので、マリアージュということでワインも無添加です。個人的な好みで、さっぱり系で合わせています。
S:メニューの中でおすすめがあるとすれば何でしょうか。
K: 夜ですと「おまかせ」を是非味わって欲しいです。料理人の心意気を込めて作っていますから。ゆくゆくはこういった一品への精度が高められるプリフィックス一本の店にできればと思っています。
それを突き詰めていけば、一日一組のお客様だけに料理を提供するという形が僕の究極の理想ですね。予約を受けてそのお客様のために季節に合った素材を選び、メニューを考えて、お客様の前で作る、というのが・・・。
今の「おまかせ」にはそんな思いも込められています。
「ウェブサイト開設はまだ考えていないんです。パソコンにあまり触らないのでメール対応や情報更新などに手がまわらないですし・・・。夫婦揃ってアナログ人間なんです。」とは奥様のコメント。なるほど、一品一品に執拗なまでに手をかける姿勢は合理性とは対極にあるもの。先に発表されたゴーミヨーでの高得点と今回の星にも浮き足立たず、今まで通りにやっていく、という賀茂氏の言葉が印象に残りました。 【Restaurant KAMO】 |
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