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作り手から“美味しさ”の秘密お届けします。 |
No.5 ひと夏の思い出 <前編> |
![]() この時期実家の方では壮大な山並みを背に稲穂の金のじゅうたんが豊かに広がっています。そんな風景も、もうそろそろ終りを迎えています。 「実るほど頭をたれる稲穂かな」 私の故郷では今頃、稲の刈り入れ真最中。今年も豊作であってほしいと願います。秋本番を迎える前に、そっとひと夏の思い出を振り返ってみたいと思います。 7月の始めに日本へ。ベルギーからヘルシンキ経由で15時間程かけて日本に到着。長旅の疲れはピークを達しこのぐらいが限界。それなのに、最後の元気を振り絞って電車を乗り継いで更に2時間程掛けて実家に向かいます。電車で揺られていると次第に景色が山里へと変化し、そのうち鮮やかな色を放った山並みと清流風景が目に飛び込んできます。いつも体感する事なのですがある場所を境に肩の力がすっと抜けて体が軽くなります。駅に迎えに来てくれた母の車に乗り込んで実家へ。 到着後まず一番にご先祖様に手を合わせ、その後、母の畑を覗きます。今年も楽しみに畑へ行ってみると、今年は例年よりも種類が増え小さな畑にびっしりと野菜が育っています!夏大根、にんじん、ジャガイモ、セロリに水なす、長なす、トマト、きゅうり、キャベツ、万願寺唐辛子やしし唐、ピーマン、長ねぎ、レタス、かぼちゃ、にがうり、おくら、にら、ブルーベリー、青シソ、バジリコ、ペパーミント、カモミール等など。母は今も現役の美容師74歳。美容院をやりながら昨年から祖母を引き取り介護も加わったのに畑は一段と実多くなっている。見るからに痩せ細り弱々しく見える母なのにどこからこんな力が湧いてくるのだろう。日本に滞在する数週間は母の愛情と大地の恵みをたっぷり受けて育った野菜をいただいて一年分のエネルギーを補充します。キッチンに隣接する畑からもぎたての野菜を採ってきてその都度調理をするのですが、今年も又野菜の美味しさ、力強い味わいに感動させられました。 数日後、息子と二人京都へ。 お寺や仏像、お庭などをゆっくりと眺めて過ごしながら京都の味を楽しむのがいつもの定番ですが今年は京都の暮らしに少し触れてみょうと言う想いがあって、ある方を訪ねました。京都初日、京都駅からJR山陰線に乗り換え終点の園部に向かいました。 お父様の山口安次郎さんは草木染めの絹糸で織る帯や内掛けを手がける名工であり能衣装や唐織物の第一人者であり晩年は江戸時代の能装束の復元に力を注がれました。 その安次郎さんの兄の山口伊太郎さんは織物による「源氏物語錦織絵巻」を30年もの歳月をかけて制作し寄贈された方です。 兄の伊太郎さんは2007年、安次郎さんは2010年に共に105歳で他界されています。 私は3年ほど前にご縁があってパリのギメ東洋美術館で伊太郎さんの作品を拝見したのがきっかけで山口豊さんとお知り合いになりました。2年前の京都旅行中に葛きりの美味しい名店“鍵善良房”で葛きりをご馳走になりながら自己紹介をしたのが最初の出会い。その後今年の春にご夫婦でベルギーに旅行に来られた際に家に寄っていただきました。 その日はイギリスの素朴なお菓子コッツウォールドアップルケーキをベルギー産のカシス風味に仕立て、焼きたてを用意してお待ちしていました。扉を開けると目の前に豊さんが満面の笑顔で立っておられて、その笑顔にドキッとさせられました。程よく冷めた食べ頃を嬉しそうに召し上がるお二人の様子を拝見していると自分の両親の姿と重なり親近感が湧きました。その時は食材の話で大変盛り上がり豊さんが畑で野菜を作っていること鶏を飼育していることなどお話してもらいました。 長く生きてこられたお二人から私に書かれた内容はまるで娘に送る優しい励ましの応援歌の様でありました。私はその手紙に励まされ幾度も読み返しました。 (次回、後編へと続きます。) |
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【著者: 小野島 ゆかり、パティシエール】 日本の菓子屋で修行をし、ホテルのパティスリー立ち上げからシェフを経験後、1997年に渡白。ブルッセル市内の菓子屋に従事。その後、結婚・出産を経て2002年よりフレンチレストランでパティシエールとして活躍。2009年末、新たなステージを目指してレストランを退職。現在はお菓子教室を開催しながら次のステップの為の充電中。得意なお菓子は、季節の果物を使ったデザート風アントルメ。愛知県名古屋市内の「”Le chapon fin” Les entremets Français」の野畑氏を師匠に持つ。 (ベル通でのインタビュー記事はこちらからご覧ください。) |
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