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 No.5 じゃあ、アベイビールって何?

トラピストビールを読んで理解した方は、次に、「アベイビール <Abbey Beer>」にコマを進めましょう。(まだトラピストビールを読んでいない方は前へモドルです。)ベルギーには、「セントXXX」(つまり聖人の名前)という銘柄名や、ラベルにいかにも「キリスト教との関連」を思わせるビールが多々ありますが、そのうち、トラピストビールとして認められているのは7銘柄 (ベルギー6銘柄Achel, Chimay, Orval, Rochefort, Westmalle, Westvleteren、と国境を越えてすぐのオランダ側にあるLa Trappe)しかありません。つまり、ごく簡単に言うと、それらしい名前やラベルデザインで、上記の7つ以外が「アベイビール」と言えるわけです。

ただ、ベルギービールの人気に伴って、アメリカや日本などで、新興マイクロブルワリーで造ったビールにも、なんとなくそれっぽい名称やデザインで「ベルギー産のアベイビール風に」したてて導入したので、ベルギーの「由緒正しいアベイビール醸造所」が立ち上がり、いろいろ考えた挙句、もろもろの条件を設定して、何でもかんでもアベイビールとは呼べないようにしようとしたわけです。

こうして、1999年、ベルギービール醸造家組合によってアベイビールの定義が成文化され、認証されたものだけがつけることのできる「Certified Belgian Abbey Beer、つまり認証ベルギー・アベイビールマーク」(1) ができあがったわけです。さて、その定義ですが、すでに市場に存在したアベイビールをすべて含み、今後にも門戸を開く包括的な定義にする必要があったため、トラピストほどはっきりしたものではありません。長い条件を非常に簡単にまとめるなら、「現存するか過去に存在した修道院(トラピスト会以外もOK)となんらかの関係があり、修道院にロイヤルティを払っているようなビール」ということになるでしょうか。

少し復習になりますが、修道院がビール造りに携わったのかといえば、労働と祈りを重んじる修道生活の中で、地元の農産物をベースにして作られる「煮沸した保存の利く飲料」として、フランスではワインが、ベルギーではビールが造られたのでした。ビールは、自給自足の「病気を介在しない命の水」として造られ、地域社会にも提供されたのです。

また、キリスト教では、「旅人はキリストである」として、旅人には宿と食事を提供してもてなすのが良しとされてきたので、巡礼や旅の途中で修道院を訪れた人々には、自給自足のために造られたビールやパン、チーズなどを施したのです。修道院によっては、自ら醸造することはできずに同じ村の農家醸造所に頼んだり、あるいは時代を経て、自ら醸造することは辞めて地域の醸造所に委託醸造したりする修道院も出てきました。旅人の多い道筋にある修道院では、多くの旅人をもてなすうちに、そのビールの旨さが人の口を伝って広く知られるようになっていったのです。

というわけで、ベルギービールは数百銘柄あるとよく言われますが、そのほとんどがアベイビールと言っても過言ではないほど、アベイビールのカテゴリーに入るビールはたくさんあります。

トラピストビールのシメイ、ウエストマール、ロッシュフォールなどに習って、同じ銘柄の中で、いくつかの異なるタイプやアルコール度数のアイテムで構成されている場合が多く、今日では、3アイテムある場合は通常以下のような感じになっています。

  • 標準(シングルという呼称は今では使われていない):通常ブロンド色
  • ダブル:通常、焦げ茶色で標準よりもアルコール度数が高い
  • トリプル:通常、濃い目の黄金色でアルコール度数がさらに高い

かつては、ダブルもトリプルも、濃い目に焙煎されたモルトで作られた複雑な味わいのダークなビールが多かったとのことですが、第二次世界大戦後、ウエストマールがピルスナ―モルトで美しい黄金色のトリプルを造り人気が出て以降は、トリプルと言うと濃い目の黄金色でアルコール度数の高いもの、そのシリーズで一番格の高いものという場合が多くなっています。

「ダブル」、「トリプル」という呼称の意味は、アルコール度数そのものが2倍、3倍という意味ではないのでご心配なく。用語の起源は、ベルギーでかつて使われていた初期糖度(アルコールの元となる糖分)の古い単位の小数点以下代2位で比較して2倍、3倍ということとのことですが、今ではダブルはアルコール度数6%前後、トリプルは9%前後というのが多くなっています。

さて、代表銘柄と醸造所ですが、とにかくたくさんあるので、私の主観と偏見でいくつか代表格を思われるものを列記してみましょう。

レフ Leffe (AB Inbev傘下のLeuvenのStella Artois醸造所)
http://www.leffe.com/
http://www.abbaye-de-leffe.be/

かつてLeffeビールを造っていたLeffe聖母修道院は、Dinantからミューズ川沿いを数キロ北上したところに現存するPrémontré(Norbertine)派の修道院です。1152年に設立され13世紀にはビール醸造をしていたと言われていますが、洪水や火災、戦争によって度々被害を受けて閉鎖を余儀なくさます。戦後の1952年、ビール醸造をOverijseにあった醸造所に委託したのが、『アベイビール』の始まりと言われており、アベイビールの代表銘柄と言われる所以です。その後、ベルギーでは小さな醸造所の買収合併の時代に入り、現在は、LeuvenにあるABInbev社のメイン工場で造られています。日本では、ABInbevのビールを総合輸入するアサヒビールが輸入販売しており、日本に出されているものは、ブロンド、ブラウン、ラデュース、ヴィエイユ・キュヴェの4品ですが、ベルギーでは、これ以外に、Leffe 9°、Leffe Tripel、Leffe Rubyのほか、季節限定のクリスマスビールや春一番ビールも出ているので、ぜひお試しあれ。

Grimbergen Dubbelグリムベルゲン Grimbergen
(ハイネケン傘下のアルケン=マース醸造所グループ)
http://www.grimbergenbier.be/
http://www.abdijgrimbergen.be/

ブリュッセル環状線のすぐ北側、Grimbergenにある修道院は、1128年に設立されたレフ修道院と同じPrémontré(Norbertine)派で、その後何度も破壊や略奪にあいながらも、そのたびに、フェニックスのように蘇ったという逸話から、ラベルデザインにはフェニックス(不死鳥)があしらわれています。修道院で造られていたビールは、その後、民間醸造所に委託され、現在ではハイネケン傘下の醸造所で作られています。

ベルギーでは、ブロンド、ダブル、トリプルの他、OPTIMO BRUNO(琥珀色、アルコール度数10%)、DOREE 8°(深い黄金色)、そして季節限定のクリスマスビールなどがあり、ハイネケン流通網に乗っているので、比較的多くの飲食店で流通されています。Grimbergen修道院内には、かわいい博物館が付いています。

アフリゲム Affligem (ハイネケン傘下のDe Smedt/Affligem醸造所)
http://www.affligembeer.be/
http://www.abdijaffligem.be/

アフリゲムも、ブリュッセルの北西20km位ところにある町で、もともと1074年設立のアフリゲム修道院(ベネディクト派)で16世紀頃から造られていたとされています。現在は、隣接する町にあるハイネケン傘下の醸造所でライセンス生産されています。アベイビールの典型的ブランドで、ブロンド、ダブル、トリプルの3アイテムで構成されています。

マレツ Maredsous (モルトガット醸造所)
http://www.duvel.com/
http://www.maredsous.be/index.php?id=16&L=2

Maredsous修道院は、Dinantの北西Donéeという村に現存する新ゴチック建築様式による壮大な修道院。1872年に設立されたが、早くから地元の醸造所に委託して修道院内消費や巡礼に訪れる信者らのためにビールが造られました。1963年からモルトガット醸造所傘下に入り、現在は、Duvelと同じ本社の醸造施設で造られています。
ブロンド、ブラウン(ダブル)、トリプルの3アイテムで構成されています。

(*「マレツ修道院」の記事もご覧ください。)

フローレフ Floreffe (ルフェーヴル醸造所)
http://www.brasserielefebvre.be/
http://www.abbaye-de-floreffe.be/

フローレフ修道院はもともとは1121年にナミュールとシャルロワの間に設立されたPrémontré(Norbertine)派の修道院で、フランス革命で破壊され放棄されるまで活動していました。その後、19世紀始めになって、エピスコパル(聖公会)の学生が送られ、ベルギー独立後、学校として運営されました。ビール醸造は、13世紀頃から行っていたと言われていますが、途中長らく中断され、1960年ごろから学校運営の資金源として復活され、1983年からは民間の醸造所が造るようになり、現在はルフェーブル醸造所が醸造しています。修道院の場所は、今も、同じ場所で、セミナーや合宿などの用途にも使える施設として使われており、ビールや軽食を楽しむことができます。

ブロンド、ダブル、トリプルのほか、プリマと呼ばれるプレミアムビール(かつて、修道院長が客人をもてなすために造ったといわれる)があります。

サン・フォイヤン St. Feuillien (サンフォイヤン醸造所)
http://www.st-feuillien.com/

サン・フォイヤンは、7世紀にアイルランドからやってきた修道士で、現在醸造所のある当りで殉教しました。それを悲しんだ弟子たちが、この地Roeulx(ルー)に教会を建て、1125年にはPrémontré(Norbertine)派の修道院となりました。フランス革命によって、他の多くの修道院や教会とともに壊滅的に破壊されます。修道院は長年にわたってビール醸造を行っていたとされており、これにちなんだビールが、土地の醸造一族フリアーによって造られています。

ブロンド、ブラウン、トリプルのほか、季節限定のクリスマスビールもあります。

<脚注>
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著者:栗田路子(くりた みちこ)
神奈川県生まれ。上智大学卒業後、外資系広告代理店勤務。米国コーネル大学およびベルギー・ルーヴァン大学にてMBA(経営学修士)取得。90年代始めから、ベルギービールの日本向け輸出・マーケティングに従事してきたが、2007年4月、セミ・リタイヤ宣言。現在は、寄稿や執筆、日本のメディアのためのリサーチやコーディネートなどを請け負っている。ベルギービールの他、教育、医療、障害児など、守備範囲は広い。 ベルギー在住。2010年にベルギービール騎士の会の「名誉騎士」に任命される。夫とともに㈱マルチライン経営の他、コーディネータースクラブ・ベルギーを運営。障害孤児の養子縁組を支援するチャリティ「ネロとパトラッシュ基金」運営。 障害を持つ子供と供に赴任する日本人駐在員をサポートする「元気ママの会」主催。 今までの寄稿をアップしたブログはこちらから。



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