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No.9 花輪とカップのある静物       
ヤン・ブリューゲル 〈Jan Bruegel 1568-1625〉
花輪とカップのある静物 

これは、大ブリューゲルの次男のヤン・ブリューゲルの作品です。

ビロードのブリューゲルとも呼ばれる次男は、お父さんが死ぬ数ヶ月前に生まれました。花を描くのが上手かった彼は、リューベンス工房と共同制作した作品も数点残しました。

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テーブル上の黄金のカップに花輪がかけられています。その花輪は、バラやなでしこ、ブルーの小さな勿忘草、それに下のほうにはスズランらしき花も見えます。花が咲く時期が必ずしも一致していないように思えますが、あまり気にしないでおきましょう。

その花輪の前には、無造作に高価なブローチや指輪、それに真珠のついた髪の毛に刺す長い金のピンが置かれています。また右の宝石箱には、真珠のネックレスとガラス細工のネックレス、それに金貨がぞんざいに放り投げられています。これは今まで、単純に「お金持ちの夫人の結婚式用具と貴金属を静物画にしたもの」といった解釈がなされてきました。

しかし、本当に貴婦人が自分の持ち物を誇って描かせたものでしょうか。もし婚礼道具と持参金の宝石類を見せびらかしたいのなら、その花嫁に美しいドレスを着せ、宝石類をいっぱい身につけさせた肖像画を描かせるのが普通ではないでしょうか。

恐らく皆さんは光と闇の画家、ジョルジュ・ラ・トゥールをご存知でしょう。ジョルジュ・ラ・トゥールの代表作に「悔い改めのマグダラのマリア」という作品があります。(右写真参照)

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お金持ちの娘でふしだらなことばかりしてきたマグダラのマリアが、キリストの死後、悔い改めて財産を捨て、信仰の道に入ったという伝説です。この伝説は多くの画家の創作意欲をかきたてて、過去に数多くの作品が描かれました。ジョルジュ・ラ・トゥールの作品でも、改心したマグダラのマリアは、持っていた宝石をすべて床の上と、テーブルの上に投げ捨て、ろうそくの炎の下でキリストに祈りを捧げました。

それでは、もう一度ヤン・ブリューゲルの作品を見て下さい。当時のフランダースでは、花輪は結婚式のときに花嫁がかぶる習慣がありました。投げ捨てられた花輪と宝石類、それに金貨。これは、家庭と財産を捨てて、信仰生活に入ったお金持ちの未亡人のことをアレゴリーとして表したのではないでしょうか。

そう考えると、「私のことを忘れないで」という花言葉のある勿忘草が この絵に描かれた理由が想像できます。


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森 耕治著者: 森 耕治 (もり こうじ)
美術史家 ベルギー王立美術館専属公認解説者、ポール・デルボー美術館公認解説者、 京都出身、 5歳のときから油絵を学び、11歳のときより京都の 川端 紘一画伯に師事。水墨画家 篠原貴之とは同門。 ソルボンヌ、ルーブル学院、パリ骨董学院等に学び、2009年よりマグリット美術館のあるベルギー王立美術館に日本人として初の専属解説者として任命され、2010年には、ポール・デルボー美術館からも作品解説者として任命された。フランスとベルギーで年10回に及ぶ講演会をこなす一方、過去に数多くの論文を発表。マグリット、デルボー、ルーベンス、ブリューゲル、アンソール、クノップフ等の研究で、比類なき洞察力を発揮。そのユニークな美術史論と独特な語り口で、雑誌「ゆうゆう」NHKの「迷宮美術館」、今年2月の日経新聞のマグリット特集、ベルギー国営テレビ等マスコミの注目を集める。【お問い合わせ先

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