No.2 ブリュッセル代表、ランビックビール! |
爽やかな季節に、鮮やかな赤や薄ピンク色のグラス。これらは、ランビックにサワーチェリーや木苺などを漬けて造られるブリュッセル伝統のクリーク(サワーチェリー)やフランボワーズなどを用いた代表的なフルーツランビックです。 そもそも「ランビック」とは、大気中に浮遊する野性酵母注1を取り込んで発酵させる、自然発酵とか天然発酵とか言われる古代製法で造られるビールの原酒の名称。ブリューゲルの宴の絵などで村人が楽しそうに酌み交わしている陶製ピッチャー入りの飲み物がそれで、発泡性もアルコール度も弱く、リンゴ酒のような酸味があります。飲みやすくするために糖分を加えたものはファロと呼ばれますが、地元以外ではあまり流通していません。 |
年代の異なるランビックをブレンドして瓶詰めし、横向きに寝かせ、じっくり時間をかけて瓶内二次発酵させたものをグーズといい、コルク栓で炭酸分を封じ込めてあるのが本物。「麦のシャンペン」と呼びたいほど手間隙かけて造られるグーズは、賞味期限の概念を越えてヴィンテージ的に長期保存することも不可能ではありません。瓶の腹に溜まった澱(オリ)をグラスに入れないようにそっと注ぎ、香りと味わいを楽しみましょう。 注1:ランビックを造る野生酵母は、ブレタノミシス・ブリュクセレンシスとブレタノミシス・ランビキュスという2つの野生酵母であることが特定されています。 |
フルーツランビックの伝統的製法は、若いランビックに、フルーツを漬け込んでその味、香りや美しい色を取り込んでから濾過し、これに年代の異なるランビックをあわせて二次発酵させるというもの。原料フルーツとしては、サワーチェリーや木苺が代表的。かつてブリュッセル近郊でもこうした果物がたくさん採れたからですが、今日では、ブリュッセル産どころか、ベルギー産の旬の果実を探すのも至難の業。そこで、産地にはあまりこだわらず、良質なフルーツを確保し、その冷凍や濃縮果汁を用いるところが多くなっています。
理論的には、これ以外の土地でも、天然酵母はどこにでも生息しており、どこでも自然発酵ビールは可能なのですが、絶妙な野生酵母の組み合わせが必要だし、暑すぎたり、湿度が高すぎたりするような地域ではうまく発酵しないとか。ベルギーでも、伝統製法のランビックビールが仕込めるのは、夜の外気温が15℃以下にさがる10月~4月頃。現在では、ランビックという名称は、ベルギービール醸造家組合が商標化し、シャンペンやカマンベール同様、「原産地呼称」のような形で保護しようとしており、むやみに誰もが使用することはできなくなっています。 ベルギー中のカフェで飲めるのは、大手メーカーによるあまいフルーツランビックばかり。ZennevalleiやPajottenlandには、昔ながらのランビック醸造所がブリューゲルの絵のような風景に溶け込んで、地元の人々に愛されています。観光交通機関はないに等しいので、地図(カーナビかGPS?)を駆使して、マイカーかレンタカーで探検してみてください。
ただ、本来、瓶入りで流通されることのないランビック原酒やファロは、地元のファンが通う、限られた地元のカフェへだけ、樽のまま運ばれ、陶製ピッチャーと背の低い単純なタンブラー型のコップで供されるのが普通。アルコール度や発泡性も低いので、ほとんど水代わり、麦茶代わり、という感覚です。また、グーズやランビックも、地元カフェでは、あまりしゃれっ気のないタンブラーグラスで飲むというのが正統派。でも、特別にじっくりと時間をかけて造られた繊細なシャンペンのような逸品の場合は、敬意を持ってフルートグラスで味わってあげたいものです。
ランビック原酒やグーズは、酸味が強いものもありますが、慣れると料理との相性はよく、肉料理でも、魚介料理でも楽しむことができます。グーズを用いた牛の煮込みや、ムール貝の蒸し物を作るレストランもあります。
一方、観光ガイドブックに必ず出てくるブリュッセル名物「生きたグーズ博物館」とは、Cantillon(カンティヨン)醸造所のこと。今日では唯一、ブリュッセル市内にあり、南駅からも至近。現在は四代目当主Jeanが奮闘してスペシャルビール復興の波に乗り、経営は順調。 3月と11月には、必ず公開醸造日を設けて、頑ななまでの伝統手作り製法を早朝から夕刻まで見せてくれるので、ぜひ参加してみてください。地元のおっちゃんに溶け込んで麦芽の匂いに包まれると、独特のすっぱい味わいが愛しく感じられます。 セナ川流域・ブリューゲル街道付近で造られる「正真正銘」の伝統ランビックは、いろいろ試して、それぞれの個性を味わい、お気に入りの銘柄を見つけましょう。HORALという「伝統ランビックビール保存会」のようなものがあり、毎年4月には、バスをチャーターしてのランビック醸造所飲み歩きツアーを主催してくれますので、飲酒運転が心配な方はこれに参加するのもよいでしょう。でも蘭語を少し勉強してから・・・ |
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BOON (ブーン) Leembeek村にある唯一のランビック醸造所。 伝統製法を守りながら、近代技術との融合を目指す中堅醸造所で、輸出にも積極的。フランボワーズの薄ピンクの美しさと上品な美味しさは絶妙。ピンク・シャンペンのような外観パーティなどにピッタリ。 URL: http://www.boon.be/ Lindemans (リンデマンス) 伝統ランビック醸造所の中では、世界中に輸出実績もある中堅。 ピーチ、カシス、アップルなどフルーツランビック・バリエーションもある。 URL: http://www.lindemans.be/ |
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Timmermans (ティママンズ、Martin’sグループ傘下) 同じく中堅で、世界中に輸出されている。 ピーチ、ストロベリーなどのバリエーションもあり、ブリュッセル市内中心部のビアカフェLa Becasse(証券取引所の裏側の狭い路地の奥)で飲める陶製ピッチャー入りのランビックはここのもの。 URL: http://www.anthonymartin.be/en/our-beers/timmermans/ 3 Fonteinen (ドゥリー・フォンテイネン) その他、まだまだありますが、流通は限りなく局所的。自分の足と舌で試してみましょう。 |
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著者:栗田路子(くりた みちこ) 神奈川県生まれ。上智大学卒業後、外資系広告代理店勤務。米国コーネル大学およびベルギー・ルーヴァン大学にてMBA(経営学修士)取得。90年代始めから、ベルギービールの日本向け輸出・マーケティングに従事してきたが、2007年4月、セミ・リタイヤ宣言。現在は、寄稿や執筆、日本のメディアのためのリサーチやコーディネートなどを請け負っている。ベルギービールの他、教育、医療、障害児など、守備範囲は広い。 ベルギー在住。2010年にベルギービール騎士の会の「名誉騎士」に任命される。 夫とともに㈱マルチライン経営の他、コーディネータースクラブ・ベルギーを運営。障害孤児の養子縁組を支援するチャリティ「ネロとパトラッシュ基金」運営。 障害を持つ子供と供に赴任する日本人駐在員をサポートする「元気ママの会」主催。 今までの寄稿をアップしたブログはこちらから。 |
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