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No.7 インスピレーションの泉    (ベルギー 王立美術館蔵) 
〈la fontaine de l'inspiration〉 
コンストン・モンタル 〈CONSTANT  MONTALD〉

コンスタン・モンタルは20世紀前半に活躍したベルギーを代表する象徴主義の画家です。ゲントの美術学校を最優等賞を取って卒業後、パリの国立美術学校に入学し直して、そこでも最も栄誉のあるローマ賞を勝ち取り、後にベルギーに戻って王立美術学校の教授に任命されました。

(←絵をクリックすると拡大画像が出ます。)

モンタルはマグリットとポール・デルボーの先生としても知られています。とりわけデルボーへの影響は無視できないものがあります。たとえば噴水のまわりに、白いベールで覆われたような4人の男女が水浴をしたり、水を飲んだり,花をつんだりして平和なひと時を過ごしています。でも彼らは決して一言も語ることなく、静寂のなかで大自然に溶け込んでいるかのようです。この奇妙な静寂さがもたらす詩情感と幻想性は、ずっと後のポール・デルボーの作品にも共通点が認められます。 

ところで、この絵は一見 金色の塗料を多用し、しだれやなぎをモティーフに使い、明暗の差の少ない幻想的な画面は日本画の影響を想像させます。とくに画面左上の黄金の部分は、あえて正方形の刷毛目を残すことで、大きな金箔を貼ったかのような効果を出しています。またその泉の清水の流れに注目してください。水の動きは白や金、それにピンクの点の集合のみで表わされているのです。19世紀末のポスト印象派の点描画のテクニックが生かされています。でも モンタル先生がここで言いたかったことは単なるポスト印象派や東洋趣味ではありませんでした。

それでは、この絵の中で、モンタルが何を言いたかったのか考えてみましょう。彼は太古の世界に、大木が生い茂る夢の森を創りだし、その中の泉に覆いかぶさるしだれ柳を「命の木」として描いたのです。「命の木」とは、旧約聖書の創世記の第2章に書かれてあります。かってアダムとイブが暮したエデンの園の中央にあった木です。その木のあるエデンの園からは1本の河が流れ出て、園を潤し、そこで分かれて4つの河になりました。楽園の泉で戯れるほとんど裸の4人の男女は、そのエデンの河から流れ出た4本の河を表しているかのようです。そう考えると、右にある、「理想の小船」は同じ創世記に描かれた「ノアの箱舟」がアイデアの源であったと想像できます。

また、この作品が制作された年の、社会問題も見逃すことができません。この作品が発表された1907年は、当時のベルギー国王レオポルド2世の個人的な領土であったアフリカのコンゴでの人権問題が表面化して、国内外の世論が高まっていた時期でした。当時のコンゴは、1885年のベンルリン会議によって、ベルギーの正式な領土でもなく、また植民地でもない、レオポルド2世が直接統治する国王個人の領土でした。このコンゴ自由国と呼ばれた広大な領地では、原住民は国王のために、象牙やゴムの採取に過酷な奴隷労働を強制されていました。しかも、軍隊による原住民の殺戮、さらにノルマを果たせなかった住民は、白人の監督から手首を切り落とされるといった残虐行為が明るみになって国際世論が沸騰しました。その結果、翌年の1908年には、政府は国王に莫大な保証金を支払ったうえで、コンゴはベルギーが国として治める植民地となりました。この絵は、そんな国際世論の高まりの中で制作されました。大自然を破壊し、人間の尊厳を徹底的に否定するような野蛮な行為に背を向けて、原始のエデンの園のように自然に戻り、自然と調和しながら生きるという人間の原点を呼び起こした作品といえます。

 (絵画はクリックすると拡大します。別ウィンドウで開く場合はここをクリックしてください。)


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森 耕治著者: 森 耕治 (もり こうじ)
美術史家 ベルギー王立美術館専属公認解説者、ポール・デルボー美術館公認解説者、 京都出身、 5歳のときから油絵を学び、11歳のときより京都の 川端 紘一画伯に師事。水墨画家 篠原貴之とは同門。 ソルボンヌ、ルーブル学院、パリ骨董学院等に学び、2009年よりマグリット美術館のあるベルギー王立美術館に日本人として初の専属解説者として任命され、2010年には、ポール・デルボー美術館からも作品解説者として任命された。フランスとベルギーで年10回に及ぶ講演会をこなす一方、過去に数多くの論文を発表。マグリット、デルボー、ルーベンス、ブリューゲル、アンソール、クノップフ等の研究で、比類なき洞察力を発揮。そのユニークな美術史論と独特な語り口で、雑誌「ゆうゆう」NHKの「迷宮美術館」、今年2月の日経新聞のマグリット特集、ベルギー国営テレビ等マスコミの注目を集める。【お問い合わせ先

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