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No.4 聖母マリアの戴冠 (ベルギー王立美術館蔵)  
ピーテル・パウル・ルーベンス 〈Peter Paul Rubens〉 

聖母マリアの戴冠 ベルギー王立美術館所蔵の「聖母マリアの戴冠」は、17世紀のバロック美術の巨匠ルーベンスのアントワープの工房で制作されました。この絵には、死後天に魂と体の両方が昇り、月の上に腰かけて天国でイエスと同じ王座に座ったとされる聖母に、勝利と栄光の月桂樹の冠が主とイエスと精霊の三位一体によって授けられる光景が描かれています。

この作品は1620年頃アントワープにあったレコレトリュム修道会からの注文で制作されました。レコレトリュム修道会は聖フランチェスコを守護聖人とする修道会でしたが、フランス大革命時になくなってしまいました。絵のタイトルから分かるように、この絵の主人公は天使たちによって天に運ばれた聖母マリアです。聖母は月の上に座り、その月は天使たちによって持ち上げられています。その右側には顔しか見えない最上位の天使セラフィムが二人見えます。このセラフィムのモデルは当時6歳前後だったルーベンスの長男アルベールです。

この絵のテーマである「聖母の戴冠」は、新約聖書に記載のあるエピソードではありませんが、反宗教改革のなかで 当時のカトリック教会が積極的に信者に説いた教義の一つです。このテーマのベースとなった文献は二つあります。一つは13世紀にジェノバの司教ジャック・ド・ヴォラジンが書いた「黄金伝説」です。その冒頭部分に、イエスが母マリアに言った言葉として「来なさい。私は貴女を選びました。そして貴女を私の王座に座らせましょう。なぜなら貴女の美しさを欲するからです。」と書かれてあります。画面に注目してください。イエスは「主の右に座したまえり」といわれるように、通常主の右に座っているはずですが、ここではイエスの代わりに聖母が座して、そこで冠を授かっています。もう一つの文献は「聖ヨハネによる福音書」の外典です。外典というのは正規の聖書として認められていない文献ですが、その幾つかは「黄金伝説」と同様に、聖書を知る上で大切な参考書として広く読まれていました。その外典には「太陽が聖母を覆った。月は聖母の足元にあった」と書かれています。この絵の上半分の聖母の背景をよく見てください。太陽が照り輝いて聖母を覆っています。つまりルーベンスは、聖母の後ろに太陽が輝く様子を、当時読まれていた聖ヨハネによる福音書の外典をから取り入れたのです。

次に右上の神を見てください。神様は地球の上に座しています。これは主が世界を治めるという意味です。そして左のイエス・キリストは殉教者であることを意味する赤い衣をきています。画面の一番上を見てください。冠の上に白いハトが飛んでいます。これは精霊のシンボルです。つまりここで主とイエス・キリスト、それに精霊による三位一体によって、月桂樹であんだ勝利の冠が聖母に授けられるところです。この三位一体による聖母マリアの戴冠によって、聖母は神聖なる天の女王と見做され、聖母被昇天と聖母の戴冠を認めないプロテスタントと根本的に区別されるのです。この点は反宗教改革においてカトリック教会の教義上のかなめでもありました。

 (絵画はクリックすると拡大します。別ウィンドウで開く場合はここをクリックしてください。)

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森 耕治

著者: 森 耕治 (もり こうじ)
美術史家 ベルギー王立美術館専属公認解説者、ポール・デルボー美術館公認解説者、 京都出身、 5歳のときから油絵を学び、11歳のときより京都の 川端 紘一画伯に師事。水墨画家 篠原貴之とは同門。 ソルボンヌ、ルーブル学院、パリ骨董学院等に学び、2009年よりマグリット美術館のあるベルギー王立美術館に日本人として初の専属解説者として任命され、2010年には、ポール・デルボー美術館からも作品解説者として任命された。フランスとベルギーで年10回に及ぶ講演会をこなす一方、過去に数多くの論文を発表。マグリット、デルボー、ルーベンス、ブリューゲル、アンソール、クノップフ等の研究で、比類なき洞察力を発揮。そのユニークな美術史論と独特な語り口で、雑誌「ゆうゆう」NHKの「迷宮美術館」、今年2月の日経新聞のマグリット特集、ベルギー国営テレビ等マスコミの注目を集める。【お問い合わせ先


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