ベル通 フェイスブック


広告受付中です。様々な種類をご用意しています!詳細はこちらから。
スタッフ募集中。楽しくベルギーを発見してみませんか?スタッフに関する詳細は「こちら」でご覧下さい。メールにてご連絡ください。



 

 





 

No.1 受胎告知 (ANNONCIATION) 1420-1430頃 (王立美術館蔵)
ロベール・カンパン (ROBERT CAMPIN)
受胎告知 クリックして拡大 この絵に描かれた内容は、新約聖書の「ルカによる福音書」の第1章の26節以降に書かれています。絵の光景は、初春3月ごろ、エルサレムの北にあるナザレという町の大工ヨセフの家の中です。しかし家の内装は15世紀初めの当時のフランダースの裕福な家がモデルになっています。

隣の部屋でヨセフが大工仕事に励んでいるときに、許嫁(いいなづけ)のマリアは本を読んでいました。どんな本を読んでいたのかは後で推測しましょう。そこへ主の天使ガブリエルが現れ、マリアに「あなたは身ごもって男の子を生む、その子をイエスと名づけなさい。(中略)神である主は、彼に父ダヴィデの王座をくださる。」と言いました。
ダヴィデというのは古代イスラエルを統一した王様の名で、当時ローマの支配下にあったイスラエルでは、救世主はそのダヴィデ王の子孫から生まれると信じられていました。その救世主を象徴するダヴィデの王座が、右端になにげなく描かれる長いすなのです。これが王座であることは、イスの両端にライオンの像がついていることで分かります。それに、もうすぐ生まれてくるイエスが座ることになるクッションが長いすに置かれています。

イエスの後の受難を象徴するかのように、暖炉の上には聖クリストフォロスが幼子イエスを担いで河を渡る姿が描かれています。アントワープ大聖堂の「キリスト降下」の裏のパネルにも描かれている聖クリストフォロスは、河で旅人をかついでわたす仕事をしていました。ある日、幼子イエスを(そうとは知らずに)かついで河を渡ろうとしたら、小さな子どもが次第に重たくなってきました。不思議に思って理由を聞いてみたら、「私は世界中の罪を背負っているから重いのだ」という返事がもどってきました。そのエピソードをここに描きこむことで、イエスの後の受難を暗示しているのです。

次にテーブルに注目してください。テーブルは円形ではなく14角形に描かれています。14角形に描かれた理由は現在のところ不明です。ただし、聖母信仰に関して、14の数字が意味することが一つだけあります。当時神学者たちに広く読まれていたと思われる聖人伝説集「黄金伝説」によると、聖母は14歳のときにイエスを身ごもり、15歳のときに出産しました。つまり、この14角形のテーブルと白百合は、全部で聖母が14歳で処女のまま懐妊したという純潔性を表しているのかもしれません。もちろんこれは仮定にすぎませんが、14という数字に理由があったために、それを明確にするために視点をあえて高くする必要が生じた可能性があります。さもなければ、視点を低くするとテーブルが円形に見えてしまうからです。

テーブルの上の花瓶にさされた白百合は、いうまでもなく聖母が処女のまま懐妊したという純潔さを象徴しているのですが、新約聖書には、精霊が聖母に降りて聖母が懐妊したと書かれています。その精霊は、通常白いハトの姿で表わされます。その白いハトが、花瓶に描かれています。またテーブルと暖炉の上の燭台に蝋燭が一本のみつけられて、もう一本が欠けているのは、イエスの誕生によって新しい時代が始まることを告げているのです。テーブルの上に無造作に置かれた本は、聖書であり、聖書といっしょに置かれた長細い麻布は、イエスが磔になった後にイエスの身体を包んだ麻布であり、イエスの後の受難を暗示しているのです。当然聖母が読んでいる本は、聖書だと思われます。ところで、一本だけつけられた蝋燭に灯りが灯っていないのは,降りてきた精霊がもたらす神の光のためだと言われてきました。しかし、メトロポリタン美術館が所蔵する別のバージョンでは、絵の光景は明らかに昼間の光景で、しかも、部屋の窓は開いたままです。したがって、蝋燭に灯りが灯っていないのはむしろ当然なのです。

 (絵画はクリックすると拡大します。別ウィンドウで開く場合はここをクリックしてください。)

      次回へ>>

森 耕治

著者: 森 耕治 (もり こうじ)
美術史家 ベルギー王立美術館専属公認解説者、ポール・デルボー美術館公認解説者、 京都出身、 5歳のときから油絵を学び、11歳のときより京都の 川端 紘一画伯に師事。水墨画家 篠原貴之とは同門。
ソルボンヌ、ルーブル学院、パリ骨董学院等に学び、2009年よりマグリット美術館のあるベルギー王立美術館に日本人として初の専属解説者として任命され、2010年には、ポール・デルボー美術館からも作品解説者として任命された。フランスとベルギーで年10回に及ぶ講演会をこなす一方、過去に数多くの論文を発表。マグリット、デルボー、ルーベンス、ブリューゲル、アンソール、クノップフ等の研究で、比類なき洞察力を発揮。そのユニークな美術史論と独特な語り口で、雑誌「ゆうゆう」NHKの「迷宮美術館」、今年2月の日経新聞のマグリット特集、ベルギー国営テレビ等マスコミの注目を集める。【お問い合わせ先


ホームへ | 一覧リストへ