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連載:人ありき
作り手から“美味しさ”の秘密お届けします。                       【2012-2-1】
No.2 レストランの醍醐味 ①
皆さんが普段利用されている“レストラン”。
そこは美味しい料理を食べながら、美味しいワインなどを片手に心許せる人達と共に話を弾ませ、楽しい一時を過ごす特別な“空間”で有ると思います。

今回の連載では、そんな空間をいつも私達に提供してくれている人達、料理人、サービス、ソムリエ、その他舞台裏で働いている方々を訪ね、取材を通して出会った素敵な方達をご紹介したいと思います。

取材にご協力して頂いた方達は、皆さんご存知のレストラン“ボン・ボン (Restaurant bon-bon)“”フレンヌリー・グルモンドュ (Flâneries Gourmandes)”の皆さんです。

ボンボンのクリストフさん(Christophe HARDIQUEST)、フレンヌリー・グルモンドュのアレックスさん(Alex MALAISE)は、共に36歳という若きオーナーシェフで今まさに働き盛りのお二人で有ります。

私とお二人との出会いは、私が“Meison FELIX”(高級食材とお惣菜屋さんを兼ねたフレンチレストラン)時代ですから、かれこれ10年程になります。

その時既にクリストフさんは、お店を持たれていて、今回取材をしたレストランは、2回目の移転を経て3軒目。最初のレストランは、ルイーズ通りから始まりました。 レストランをオープンして3年目にミシュラン星付きになり、今日まで維持しています。

アレックスさんのお店は、オープン前からお手伝いさせていただいたので、オープン前後の苦しい時代を乗り越え、今では予約しないと入れないお店までになり、クリストフさんを初め、私もその過程を見守って来た中の一人であります。

このお二人は、14歳の時からエコール・オトリエ(料理専門校)を共に過ごした22年来のお付き合いで、親友であります。アレックスさんから、クリストフさんについて、 「彼はこの10年で大きな変貌を遂げている。そのことは、自分の事の様に嬉しく思っている。なぜなら、彼の成功はそれに値する努力をしているから。仕事以外に家族へ対してもいつも心くばりを忘れない彼は、本当の兄弟の様で有り、いつも尊敬している。」と話してくれました。

クリストフさんのレストランは、2011年9月より現在の場所に移り、名前は同じですが、イメージロゴも変わりリニューアルして再スタートされました。新しいスタッフも加わり、ここでは長年連れ添われてきた奥様がサービスにも参加されレストラン入り口のレセプシォンでお出迎えしてくれます。 (右写真:奥様Stéphanieとお二人で)

現在のお店は、自然光が沢山入る気持ちの良い客席とお庭を眺めながら、季節の風物をも楽しめる様になっています。

レセプションからラウンジを通り抜けると、直ぐに目に入るのが、オープンキッチンと長い長いバーカウンターです。その左奥がお庭の見えるテーブル席になっています。

実際に以前のレストランと比べ客席が見た感じ2倍ほど大きくなりましたが、客席数は8席程しか増えていないそうです。お客様にゆったりとくつろいでお食事していただきたいと言う気持ちが現れていると思います。

今回の移転の大きな理由として、自然光の入る気持ちの良い環境で“Respirer”たっぷりと呼吸しながら精神的にも良い環境で料理を作り、お客様にもくつろいで頂きたい。そして「家族の為に」 と、思いきって移転に踏み切ったそうです。クリストフさんには、奥様と3人の娘さんの他、総勢スタッフ13人を抱える大世帯で、彼曰くレストランのスタッフは僕にとって第2のファミリーで有ると言います。

取材一日目。仕込み前にスタッフのキュイジニエ(料理人)さん達とのミーティングが始まりました。私も皆さんの脇で、ミーティングに参加させてもらいました。(写真はミーティング風景)



各セクションの本日提供されるお料理の説明が始まり、スタッフの皆さんは、メモを片手に真剣な眼差しで話を聞いています。そんな中、スタッフの意見も積極的に取り入れながら、その場で料理のアイデアが出され、お皿、盛り付けなども皆で話し合いながらテンポ良くその日のメニューが決って行きます。こんなにあっさりと決められているなんて思いも寄りませんでした。私自身としても勉強になりました。

ミーティング中に “MAKI”巻きと言う言葉を使って料理説明されていたので、クリストフさんに日本食材は良く使われるのか訪ねてみると。「好んで良く使っています」と言われました。キッチン裏の調味料棚を覘いたところ…有りました!醤油、たまり、酒、のり、昆布などずらりと並んでいて、引き出しには鰹節が山ほど!驚いた事に、にがりや小豆も使われているそうです。気になった小豆、どのように使っているのか訪ねてみると、「アニョー(子羊)の付け合わせで出していて、一緒に食べると美味しいんだよ。」と教えて頂きました。

実はレストランのメニューカードの一番下のところに、こう書かれています。 (日本語訳)

レストランで本日使用したお野菜は、95%が有機栽培で作られたものです。

以前、食事をした際にメニューカードを拝見したのに全然気が付かなかったんですが、今日クリストフさんから説明を受けて納得しました。 お魚、お肉など国内外から厳選した素材を取り揃えているのですが、お野菜までも拘っていて食べる側として大変嬉しい事だと思います。

BIOのお野菜は、本当に味が濃く美味しくて食感が違います。しかしながら、形が不揃いでコンスタントに入荷するのも難しいと思うのですが、その事に関しては、「見た目よりも味・食感が大切なんだ!」と嬉しいお返事を頂戴しました。それになんと!ここのお野菜は、クリストフさんの奥様ステファニーさんのお兄さんが丹精込めて作っているそうなんです。いつか、訪れてみたいです!

こちらのお野菜、皆様ご存知ですか? (写真左)
本日のお魚の付け合わせになるお野菜、パン・ドュ・スュークルという冬野菜。私も少し前にマルシェで見つけ買いました。このお野菜は形は白菜を細くした様な葉の部分はレタスの様な、お味は・・・シコンかな?お料理するのが難しく困ってしまった代物でした。ここでお目にかかるとは!

「葉の薄いところをサラダとしてお出しし、残りは従業員の食事に使います。」と、料理していた方から。日本素材にない苦味、その苦味を残したままサラダで食すベルギーの方達。ビール文化が素晴らしいこの国ならではの味覚感覚だと思います。長年ベルギーで暮らし食べ続けてこそ、その美味しさがわかるのではと思います。今では、私もシコン愛好家です。このシコン系野菜、血液を浄化する働きが有るとも聞いています。

クリストフさんがお肉を切り始めました。(写真右)
冷蔵庫は、お魚、お肉、野菜としっかりと分かれています。ここが、ポイント!!! なんだそうです。お肉は、入荷したものをその日にお出しする事は決してしないというのです。私の頭の中は、???どうして~。

入荷したお肉は、真空状態で届いたりしますが、その包装をはがしラップなどしないで、コットンシートを敷いた上に置いて3~4日程、冷蔵庫で寝かせます。これは、お肉の表面を乾燥させる為なんです。こうすると素材の味が一層増し、味に深みが出て美味しくなるというのです。そう言えば、フレンヌリー・グルモンドュでもラップしていなかった事を思い出しました。灯台下暗しとは、このことですね(笑)。そして、お肉とお野菜は同じところに保存しない事!なぜならば、野菜の湿気がお肉の味を落としてしまうからだそうです。

レストランに魚が届いた様です。「君も見てみない?」と言われ、傍まで行って見てみる事に。



新鮮で生きの良い魚、とても綺麗です。鼻を近づけ匂いを嗅いでみても生臭さなんて有りません。「うちのは生臭いはずがないよ、釣りたてだから!」と仰るこの方は、ここのレストランに長年、魚を届けている魚屋さんです。 「魚の鮮度を確かめる方法、知っている?」と訊れ、「目かな~?」と答える私に魚屋さん、魚の頭を手に取り持ちあげました。御覧の様に魚がうなだれる事なく、ぴんとまっすぐになったままです。こうやって鮮度の良い魚は、支えが無くてもまっすぐな状態を保つそうです。

そう言えば、以前のレストランはオープンキッチンではなかったはず!今回、このようなスタイルにされたのはどうしてなんでしょう。今の流行かな?なんて思っていると、こんなお話をして下さいました。

「私は、料理は “芸術”の一つだと考えています。
それも、とても“はかない芸術”です。
そして、レストランのキッチンは、“テアトル”(演劇)だと思っています。
それだからこそ、お客様にも料理を味わって頂くだけでなく、
“料理のテアトル”を楽しんでいただきたいと思っています。」

この言葉は、私の心に染み渡りました。取材中常時、心を込めてお話してくださったクリストフさんの気持ちが私の心に言葉の壁を越えて届きました。

外を眺めるとお庭には、今ちょうど(11月の初め)日本の茶花を想わせる白い可憐な花が咲いていました。

次回に続く。


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小野島ゆかり 【著者: 小野島 ゆかり、パティシエール】
日本の菓子屋で修行をし、ホテルのパティスリー立ち上げからシェフを経験後、1997年に渡白。ブルッセル市内の菓子屋に従事。その後、結婚・出産を経て2002年よりフレンチレストランでパティシエールとして活躍。2009年末、新たなステージを目指してレストランを退職。現在はお菓子教室を開催しながら次のステップの為の充電中。得意なお菓子は、季節の果物を使ったデザート風アントルメ。愛知県名古屋市内の「”Le chapon fin” Les entremets Français」の野畑氏を師匠に持つ。

(ベル通インタビュー記事はこちらです。)

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